河久「はも鍋」

  

  

 

 年に一度、鱧鍋を食べに行きました。

大阪第三ビルの33階にある、河久という日本料理の店です。

日曜日は雨との予報で、出かける時には、雨がパラパラ降ってましたが

店に着く頃には、雨が上がって、霞んでいた眼下の景色が徐々に霧が晴れたように、

くっきりと姿の全貌を現わし、素晴らし眺めを提供してくれました。

この店は、昔、近鉄の監督だった西本さんが、「ちょこちょこ行ってます。」というかマーシャルを流してした店で、以前は、茶屋町のホテルの地下にもあったのですが、経営の簡素化なのか、大阪ではおそらく、この第三ビルのもとからあった店だけになったのではなでしょうか。

 この店の、鱧鍋は、本当に美味しくて、年に一度の贅沢です。

冬はフグ、夏は鱧というのは、京都の老舗割烹ではそうなのですが、この店もそれを守っています。

 最近は、年中河豚も鱧も食べられるようですが、私は、夏の鱧、冬の河豚を楽しみにしています。

 玉ねぎと三つ葉がたっぷり、鱧は、一人二匹くらいは十分にあるような量で、

 美味しい出汁に、入れて、しゃぶしゃぶと箸を揺らす程度で引きあげて頂くのです。

 薬味は、唐辛子と細ネギ。

 最初に出された突き出しは、ウニやホタテが入っていて、日本酒にとても会うお料理。

 鱧も玉ねぎも食べつくして、お腹が一杯になった頃、固く湯がいた素麺が運ばれてきます。

 このお素麺が、なんとも美味しくて、素麺嫌いだった私をすっかい変えてしまったもので、それ以来、夏は素麺を家でも食べるようになったのです。

 鱧で美味しい出汁がさらに美味しくなっているので、この味はたまりません。

 お腹が大きくても、するすると自然に入って行く。

 鱧コースというのは、これに、鱧湯引きと天ぷらが加わって、デザートも出るのですが、

 鱧鍋の単品のほうが、美味しいし、もうこれ以上は余分の余分。

  美味しい出汁が、まだたっぷり残っているのが、本当にもったない。これで、大根でも炊けばと残念だけど、持って帰るわけにはいかない。

 先日、大根を、たっぷりの利尻昆布とだし汁だけで、圧力窯で焚いたのですが、アミノ酸がたっぷり出て、美味しい大根になりましたので、それを思い出して、これあればなあ、と思ったわけです。

 食事を作る時は、いつも、誰かに食べてもられば、と思うものです。

  われ一人 造る料理の わびしさよ

 床下の物入れを片付ていて、古いワインを思い出した。

 立派な紙箱のおさまったままの白ワインで、一九九九年に作られた、

一一〇〇〇本の限定品の北海道で買って来た思い出のワインです。

大事にしていたもので、バッカスという名前なのですが、早14年という月日が過ぎていたとは。

もうだめだろうな、お酢になっているだろう、ワインの栓もぼろぼろだろうと思っていたのですが、すっと抜けました。カビのようものが、ついているので、それを拭って、ワングラスについでみると、お酢ではなくて、豊穣なワインの出現。これほど美味しいとは。

びっくりなのですが、これも一人で飲みながら、誰かにあげたいなあ。

栓は、痛んでいて捨てたし、持っていく方法も、見つからず、結局、自分ひとりで飲んでしまうのが残念なくらい、美味しい。

白ワインは、古くなるとだめ、と思っていたのですが、このワインは、生のまま詰めたもので、特別の作り方だったので、貴腐ワインにように、美味しくなっていたのでしょう。

開けなきゃよかった、何かの時に、開ければ良かった。