療養病院

   生牡蠣が美味しい季節

 叔母を、ワタミの介護施設に入れてあげたいと思い、従姉妹が、診断書を病院にお願いした。

  2週間かかるとのことで、私は、ワタミに、ベッドをそれまで仮押さえしておいてもらえるかを聞きに電話した。

 すると、病院からすでに2度も電話が入っていて、鼻腔栄養の必要な患者が、施設に受けいれられるのか、という問い合わせだったとか。

 ワタミでは、診断書の提出を待って、叔母の面接には来るけれど、鼻腔栄養は受付ていないので、入居出来るかどうかは、五分五分だと。

  昨日、私は、豊中の病院に、保温にいれた、うどんと、スープ、バナナにカステラを車に積んで行った。

 叔母をベッドに座らせようとすると、叔母が自力で、ベッド脇のパイプをつかみ、起き上がって、足をベッドの下に。座って、自分で支えることが出来た。

 おしめを換えに来た職員が、

「顔つきが違うね。」と感心した。叔母の顔はりんとして、しっかりしているからだ。

 おしめを替えるのに、再びベッドに寝る。

 病院の医者の話が聞きたいと、二階の詰め所に行くと、部屋で待つように言われた。

 すぐにやっていたのは、看護婦長だった。

 「先生は、今日はおられません。」というので、

 「回診は済んだのですか?」と聞くと、

  回診はないとのことで、「では週に一度ですか?」と言うと、

 悪い時はみますけど、との返事で、医者は普段、叔母を看ていない。

 血液検査もしていない。

  日に、一度でも、トイレまで歩かせてほしい、と頼むと、家族でさせたら?と言われた。鼻腔か、口からの補給か、どちらかしか出来ない。両方を併用すると、違反になるのだという。

 歩ける患者なら、療養形病院には置けないという。 リハビリも出来ない所を、特別にしてもらっていたと。

 療養形病院とは、生きている患者の、生命を維持するための、生命力のある患者を、苦しまずに、命を使い切る、生ききる患者の、お手伝いをする病院だということ。

 生ききって亡くなられます、と言う。ベッドで、口を開けて、表情もなく、横たわっている人達は、何度かの危機を乗りこえて、生きている人もいれば、寿命を終える人もいる。 そういう人達のおしめを替え、清潔にしてあげて、床ずれのないようにする。胃瘻か鼻腔か、その人に適した方法で、栄養を入れ、痰の吸引をして、熱が出れば、薬で抑える。 そういう病院としては、評判の良い方なのは、家族の付き添いがいらない、完全看護で、病院の中は、清潔に保たれているから。

 ターミナルケアーの病院を、療養形病院と言う。病院を3ヶ月づつ、転々とした患者が、ここに来て、最後まで安心してケアーしてもらえるというので、金銭の余裕のある患者の家族はとても感謝している人が多い。

叔母は、今、最も安定して、良い時期だと言われた。

 痛みもなく、楽で、頭も明瞭になって、話も出来る。歩くことも少しは出来る。コーヒーなど、好きなものを楽しむことも出来るようになっているけれど、圧迫骨折もしているし、胃潰瘍にもなりやすい体質だから、施設に行き、ベッドから転んだら、もうだめだ、という。歩いても、負担がかかると、また痛み出すという。

 そう言われると、施設へ、リスクを承知で、入れるという決断は出来ない。鼻腔を外すと、たちまち、t体力が低下する。食べる意欲のない人に、無理に食べさせることは出来ない。

 こんな状態で、と健康な人間は思うけれど、こういう状態でも、叔母に不満だないのであれば、他の生き方は出来ない。

 環境の良い、手厚いケアーが受けられる、鼻腔でもいける所もあるにはあるけれど、

 施設プラス病院の費用もいるくらいの高額になる。叔母には、それほどの余裕はないだろう。

 入居金が2千万、月額が40万くらいする。よほど余裕のある人にしか与えられない機会だろう。

 病院の看護婦長は、トイレに行かせたいのなら、家族でしてください、という。

食べさせたいのなら、家族が持参して、或いは、車椅子に乗せて、レストランに行かれたら、と。介護タクシーを雇って、デパートに行かれても良いでしょう、そういう許可なら、 私が院長から、もらいますよ、と。

 そんなことが出来るようになっているとは?、初めて口にされたこと。

 叔母はそういうことが可能なくらいには、回復していることは認めている。

 それで、不都合があれば、病院に入院しているのだから、対処の方法はあるから、誰もこの病院からは出られないです、と。

説得力のある話だ、とは思う。

 一旦、この病院を出ると、もう引き受けられません。他の病院を探されたら良いですが。 どこでも良いのなら、ありますよ。遠い所とかだと。

 旨い脅しの殺し文句。患者の家族は、びびってしまうだろう。