反面教師

 

息子が計器飛行の筆記試験に合格した事を息子のブログで知った。筆記試験の勉強をする時間がないと嘆いていた。

 昼間、仕事をしながら、勉強するのは、確かに大変だろうと思う。昼間の仕事以外に、休日には、貯まった洗濯、買い物、食事造りなどの主婦の仕事に、飛行訓練、連休があると、旅行にも行きたい。

 仕事をやめさせてくれれば、失業保険が出るので、やめさせてほしいと言っていたけれど、最近言わなくなった。

 アメリカも不景気で、会社の全員が減給になった。息子も5パーセントダウン。ボーナスは出ないのでは、という。

 転職がある時には、やめたいと思うけれど、まわりに秋風が吹き荒れると、保護機能が働くようになる。

 やめさせてほしい、リストラに自分を加えてもらったら、と言っていたらしい。リストラで従業員が何人かやめさせられたが、その中に彼の名前はない。

「給料安いからだろう。」という。

「 やめたいのなら、簡単じゃないの。休んで、勉強すれば良いのよ。出勤しない人はやめてくれ、と言われるわよ。」

 息子は、それは出来ないらしい。会社は休まず、お客さんは、頼みやすいので、息子使命の仕事や電話が多い。

安月給で、よく働く人間は、会社で重宝される。

息子曰く、「自分よりも能力がなく、仕事も出来ない人間が、高い給料をもらっているので、こんなに働いていると、不満が出てストレスが溜まる。」

 息子が「坂の上に雲」 を見ていたら、自分の価値を見直しているに違いない。

正岡子規の言葉では、

 「高い給料をもらって、一人分の仕事をする人よりも、一人分の給料で10人分の働きをする人の方がずっと偉い。自分は安い給料で、力の限り、精一杯働く。」

 私が息子を褒めるようになるけれでど、彼は手抜き出来ないし、陰ひなたなく、真っすぐな正確で、人に喜んでもらいたいと思う気持ちがとても強い。レストランで働いていた時にも、やめないでほしい、店長に、と請われたけれど、店長のことを思って、自分がよりよい地位につくことを拒んだ。

 ガールフレンドは、皆、優しさと陽気な明るい性格に惹かれたと。裏表のない、ざくばらんな性格だから、男友達にも好かれる。

坂の上の雲」の中で、父親が言う。

「貧しい家から、偉い人物が出ている。親は貧乏でいるのは、子供に偉くなってもらうためだ。」

 

息子は偉い人間ではないけれど、親が、嫌われ者で、村八分も平気な性格で、社会性に乏しく、のんべんだらりとなまくらものだから、反面教師になっているに違いない。

私の母の口癖になっている。

「あの子は、面白くて、人を笑わせ、器用で何でも出来るから、何やっても、きっと成功するわ。誰からも好かれるから。」

 パリの、超辛口の従姉妹にも、随分高い評点をもらっている。

「お母さんと大違い。よくあんな息子が出来たわね。苦労したのよ。お母さんよりずっと大人だわ。すごく気を遣って、心配りが出来ている。」

親がだめなのは、子供がしっかりするため、親が嫌われ者に甘んじているのは、子供が好かれる人になるため。かっこつければそうなるわね。

 安月給で、何人分も仕事できるということは、素晴らしい事、そういう人達は、嘆いていないで、偉いのだと自慢していいのですよ。