二号様と、土瓶蒸し

 

車で送っていくよ、と行ってくれてたので、4時に起こす。一旦起きて、ソファに横になり、

「ああ、気分悪い。こりゃだめだ。」早くしてよとせかすろ、「出る前にトイレに行くわ。」やっと外に出たら、車を探して見あたらない。自分が運転しなかったので、そこに停めたのかがわからない。坂を下ったり、登ったり、ああ、時間がなくなる。

 「遅れたらどうしてくれるのよ。」

「僕は遅れも困らないよ。」笑っている。

  「気分悪いから水を買って行くわ。」

 「冗談じゃないわ。帰るまで我慢してよ。」

 「時間どれくらいかかるの?」

 「40分くらいかな。」

 「それじゃ、全く間に合わないじゃない。」

 かっかされっぱなし。

 信号にひっかかると、なかなか、色が緑にならない。

 「頭に血が上るわ。」

 と言いながら、空港まで、15分かからなかった。息子は知っていて、からかっているのだ。

母と3人で黒川温泉に行った時もそうだ。

飛行機に間に合わなくなるから、と言うのに、息子は、途中で、お腹が空いたといって、レストランに立ち寄って、ラーメンセットなどという時間のかかるものを注文した。

私と母は、食べずに、いらいらしながら待つ。さんざん悪態をついてやるのに、平気で、笑って喜んでいる。腹が立って、腹が立って。でも、十分余裕を残して、空港に帰ってきた。母と私は、空港でラーメンを食べる時間があったのだけど、知らない土地で、どれだけ時間がかかるかわからない時には、こちらがまいってしまう。

 ニューヨークの空港へも、1時間前に着いて、何の問題もなかったのだけど、それまで、私を怒らせるのが、息子の喜びであるらしい。ケラケラ笑っていると、余計に腹が立って仕方がない。それを見て、また笑うのだから。

ともあれ、JFKのラウンジは、今回三回使った。サンフランシスコまでは、15000マイル使って、グレードアップしていたので、寝ようと思っていたが、コンピューターの無線サービスがうまくいって、繋がったので、寝ないでコンピューターをしてしまった。 6時間半、退屈はしなかった。サンフランシスコからは、エコノミー席だけど、並びが空いている席だというのに、寝られるなと期待して、飛行機に入ると、おじいさんが、真ん中に座って、自分の荷物で席を確保している。じいさんは、飛行機のアテンダントに、何かをあげている。来る度にあげるようだ。

「藤本様、そんなに頂いたら、二号様に差し上げるものが無くなってしまいますわ。」と彼女が言っている。

そのじいさんは、アメリカ国籍になっている。英語の新聞を読み、日本語の方は、あまり上手ではなさそう。へえ、二号さんに会いに行くのか。魅力のなさそうな、がりがりじじいで、食事が終わると、オーバーを着込んで、その上に、毛布をかけ、手袋をして、肘掛けを倒して、横になって寝てしまった。そのまま、トイレと食事に起きるだけ。空港が近づくと、アテンダントがやってきて、

「藤本様、土瓶蒸が待っていますよ。」土瓶蒸しが食べたいと、彼女に話していたのだろう。土瓶蒸しと、二号様、が、じじいの日本滞在の目的であるらしい。

飛行機が着くと、足下に置いていた、大きな布のずだ袋のようなバッグとキャリーバッグと二つも持って、出て行く。相当力はある。よぼよぼしているのは、顔つきだけで、案外元気なじいさんだった。私は、寝られなかった。年寄りに席を譲るのは当たり前だから、文句は言えない。