裏町の天才画家

 セザンヌ

テレビの「ナイト、スクープ」は、毎会ではないけれど、時々、チャンネルに引っかかると、笑わせてもらっている。先日は、おもしろいというよりも、ヘー、すごいな、と感心した。

 散髪屋さんの息子さんからの依頼だった。両親が、30年来、独学で絵を描き続けてきた。そろそろ、家業を引退して、画家として再出発すると、本気で考えているらしい。そんな甘いものではないことを、教えてやってほしい、というのだ。

昼間、散髪屋で働き、夜中、夫婦で絵を描いている。お互いが天才だとほめあっているというのだ。中には、ピカソマチスゴッホをまねたような絵がある、と息子さんは言う。

 探偵は、ご両親を訪ね、本気なのかと問い正し、彼らの膨大な絵画の中から、選抜して、展示したのを、画商に見てもらう手配をした。

3人の画商は、彼らの絵画を見て、3人がそれぞれ、違った絵に目をつけ、買いたいと申し出た。

なんとその中に、10万円もの買値のついたものがあった。あとは、確か五万円と三万円だったか。

 二人は、もっと高い値段がつくと思っていたという。「売りません。」という答えだった。たとえ、もっと高い値段がついても、彼らは、大切な精魂こめて描きあげた、宝のような絵画を、売れなかったかもしれない。

 画家貧乏、と言う。描いても,描いても、食べていけない。画商が、実売値の、ほとんどを取ってしまう。絵を描けるだけの、最低のお金しかいれてもらえない。売れなければ、それも入って来ない。入って来るお金は、画材で消えて行く。

 

十万という値段は、相当高い。画商は、この何倍もの値段をつけて売るのだから。

 生活の糧が、他にある人だから、其の絵を売る必然性はない。大切なものを手放す気はない。明日の飯にことかく人達なら、絵を描く材料が買えない人達なら、身を切られる思いはしても、手放しただろう。

本当に画家として、再出発する気があれば、 絶好のチャンスだったのに、と私は思って残念な気がしたが、二人には、散髪屋さんをしながら、

夜中描くことの方が、二人に取って、大切な生活だ、と認識できたなら、それはそれで、良かったと思う。