癌の転移と再手術

  吉田さん

「 梅雨明け宣言したそうですよ。」

屋外庭園のベンチに座っている婦人に声をかけた。冷房の入っている中から、お風呂のような暑さの外に出ると、しばらくは冷えた身体が温まる気がするが、そう長くはいられない。

母は、カラスが飛んでいるのを見て、「カラスの親子はとても仲が良いのですって。」とその婦人に話しかける。

青空にうす色の雲が流れ、飛行機雲を引きながら、遥かに遠い空を、飛行機が飛んでいるのが見えた。婦人が教えてくれたから。

「伊丹でしょうか。」と雲の引き始めの方角を確かめて、指をさす。

お元気そうなので、「もう退院ですか。」と聞くと、これから手術だといわれる。大腸のポリープが大きくなって、内視鏡では取れないから、開腹主術になる。「それは大変ですね。でも回復は早くなっていますから。」と言葉がないので、ありきたりなことを言うと、「2年前に乳がんを手術しましたから。仕方ないですね。出来るものを拒むことは出来ませんし、おまかせするしか仕方がないです。80を過ぎてね。」淡々とおっしゃる。

私は、内心、この病院で大丈夫なのかしら、と心配になる。

海の見える面会所のソファーにいつも座っていた、患者さんは、月曜が退院だと言われていた。その方も、胃がんから、別の個所に転移しながら、今回は大腸ガンの手術をされたという。「なんとか生きていますから、寿命があるのでしょうね。」まだ働き盛りの男性だった。

この病院、そんなに信用して大丈夫なのだろうか、命預けられるのかしら、と言葉では出せないけれど、心配した。けれど、癌の手術も沢山手がけているようだ。

 「奥池に住んでいますのよ。その向こうの方です。」

 芦屋では、この病院だけですか?とそれとなく聞くと、「公立はここだけでしょう。」と。

「ここは阪大系らしいですね。」と畳みける。

「そうなのです。優秀なお医者様が多くて、看護婦さんたちも、古くからお勤めで、ベテランの方もいらっしゃる。」

その婦人は、病院をすっかり信頼しきっておられる様子。勿論そうでなければ、手術をゆだねる気にはなれないだろう。

それでも、私は、ここで大丈夫なの?と。

隣の、床ずれの患者さんの娘さんは、「以前は、療養型病院だったのですよ。前の院長がとんでもない人で、やめてもらって、潰すわけにはいかないので、立て直しをして、大分改善はされているようですが。」とひそひそ声でおっしゃる。

 良いは、悪い、悪いは、良い、そういうことなのだろう。