奥座敷の夫人

 

 芦屋病院は、芦屋市民が患者としては多い。夙川か、芦屋に住むお年寄りなのだろう。隣の患者さんの付添に来る娘さん、と言っても、70を超えている女性は、妹たちと交代で、毎日来られているが、彼女は、結婚せずに、ずっと両親と暮らして来たそうだ。上品な人でいかにも芦屋の昔お嬢様だった、という感じの人だ。老老介護です、と言われる。

その隣に、運ばれてきた老人は、脳梗塞だ。糖尿病はあったが、先日CTを取った結果では、わからなかったそうで、ふらつくが家に帰った。救急車で運ばれて、MRIを取って、脳梗塞があることがわかった時には、遅かりし。それまでは一日に一万歩、歩いていたそうで、ゴルフにも行って元気だったとか。病室で大声で叫んでいる。廊下に出ている奥さんは、部屋にいるのが耐えられずに、廊下にでている。どうしようもないからだ。

「嫁が世話していると、大人しく良い顔をしているのですが、私が交代すると、パジャマを脱がせ、おしめを外せと怒鳴って、トイレに、自分で行こうとするのです。ベッドから、降りようともがいて。」とオロオロ。ベッドの下にマットがあるのは、落下防止の為だろう。

可愛いくて優しそうな、芦屋夫人、病気のご主人も、矍鑠として、昔のハンサムという感じ。昨日まで健康の為に一万歩歩いていた人が、突然倒れて、おしめになれば、意識はあるので、我慢が出来ないだろう。が、さすが、息子の嫁には、良い顔をして我慢。嫁さんには、甘えるだけ甘えが出る。部下を使って偉そうな生活をしていたものだから、税理士事務所を開いてからも、その環境が抜けなくて、大柄な態度で、ワンマン経営だったと奥さんはおっしゃる。

芦屋、夙川、と言えば、関西の屈指の住宅地で、昔の風習が生きている。何代も家族が住んでいる家もある。長男のお嫁さんの立場と責任は、受け継がれているようだ。病院に、毎日朝早くから、夜まで付き添いにやってくる女性も、姑の世話。車は介護車のレッテルが貼ってある。お嫁さんでも、立場は、お手伝いか、介護士。姑の権威がものを言わせている。長男と結婚するものではないといわれてきたのは、昔の事ではない現実を見る。