電車の中は劇場空間

 

 

パリは、Tシャツ1枚で歩けるくらいの陽気。パリから、シャルル、ドゴール空港には、電車、バス、タクシーという選択肢があるが、一番早く、便利なのは電車だ。日曜日の早朝は治安が悪いので勧められないが、平日なら通勤客も多く、心配ない。

 私がいるアパートは、左岸(リブ、ゴーシュ)の南に位置する。大学が、カルチェラタンラテン語で授業が行われていたので、ラテン語地区と言われた大学都市)から、各地に散らばるようになり、このあたりにも、大学が多くなった。地下鉄は、フランスワ、ミッテランの名前についた国立図書館があるので、その名前をそのまま使っている。地下鉄とPER(郊外電車)の両駅があるので、とても便利だ。ベルサイユ宮殿やオルセーには、PERC線で行ける。空港には、サンミッシェル駅でB線に乗り換えて40分ぐらい。ただ、PERは、地下鉄に比べて本数が少ないので、地下鉄でシャトレまで行き、そこで乗り換える方が、階段を使わなくてすむので、そちらの方を利用している。

 空港に迎えに行く時には、サンミッシェルで乗り換える。

酔っぱらいが「俺をうつせよ。」

 余裕を見て、早く出たのだけけれど、電車が途中で止まったまま動かない。こういうことが良くあることを忘れていた。昨日、従姉妹から借りた本を読んでいたので、気づかなかったが、しばらく停まったままのようだ。一瞬不安がよぎる。事故か、ストなら、このまま動かないことも。15分ほどして電車は動き出したので、ほっとする。

 電車は地下を抜け、外に新緑の景色が広がると、もうそこはパリの郊外だ。

 背後から歌が聞こえてきた。録音した伴奏に合わせている。あまりに上手なので、録音ではないのかと振り向くと、南米の女性のようで、生の歌だった。一曲が終わると、拍手が起こった。私も。滅多にあげないお金、財布から小銭を幾つかだした。二曲歌って、コップを持ってお金を集めに来る。結構みなさん、あげているようだった。あれぐらい上手なら、日本に来ればすぐに歌手として通用する。

 マロニエに若葉が

 町の道路に座って、ただお金を要求する物乞いがいる。もう一歩も歩けないようなかっこうで、パン屋の前に座り込んでいる若い女性がいた。倒れているのかと近づくと、物乞いをしている。

 通りで、手を出して立っている人、座って前に,缶を置いている人。

 吉田さんが言っていた言葉を思い出す。

 ただ何もしなくてお金をくれと言う乞食がいるが、そういう人にお金をあげなくてよろしい。なんでも良いから、努力をしている人でないとだめだ。上手下手は関係ないし、何をしていても良い。お金をもらうには、努力が必要だ、と。何かやれば、それは立派なパーフォーマンス、演技者だから、それに対して胸を張ってお金を要求すればよい、と言っておられるのだろう。確かに、と思いながら聞いていた。

この電車の中で歌っている女性は、プロ中のプロだ。こんなに安いお金で聞かせてもらっているのだから、私の方が有り難い。

時々、すごい演説をする人がいる。内容はよくわからないけれど、蕩々としゃべり、それから手を出してお金を要求してまわる。胸を張って回っている。

 電車の中は、劇場空間のようなものだ。時々ハプニングがやってくる。

 帰り道、電車が郊外駅でずっと止まったまま、動かなかった。だいぶ立ってから車内放送が。15分ほどしたら動きます、と。