ふるあめりかに袖はぬらさじ

   

 

有吉佐和子の原作で、初演は昭和47年名古屋中日劇場での文学座公演で、杉村春子が主演の芸者、お園を演じた。 昭和63年に、杉村の当たり役であった、お園を板東玉三郎が受け継ぎ、以来繰り返し、公演されてきた。その名作舞台を、平成19年の12月歌舞伎座公演で、歌舞伎として発上演された「ふるあめりかに袖はぬらさじ」をシネマ歌舞伎として、7月4日まで、上映している。

 舞台のような臨場感はないが、大写しの画面で、役者の細やかな表情まで映し出されるので、映画感覚で見るようにカメラの捉え方に工夫が見られる。舞台中継なので、臨場感を出すべく、拍手や客席からの笑い声が録音されているのは余計な気がする。拍手はまだしも、笑い声は、耳障りで逆効果になっている。

 手頃な値段で、歌舞伎の名舞台が見られる機会があることは、歌舞伎フアンだけではなく、歌舞伎の楽しさを紹介し、歌舞伎フアンを増やす宣伝効果もあるだろう。

 主演の芸者お園を演ずる板東玉三郎の見事な演技は言うまでもないことだが、歌舞伎とは違った、せりふまわしが、ふとテレビの対談などで聞く玉三郎の語り口に、声も話し方も似ていて、新派の舞台のような感じがする。

 吉原から知っていた、花魁「亀遊」に七之助、唐人の通訳として雇われている、医学を志す青年「籐吉」に中村獅童、横浜の遊郭「岩亀廊」の主人に勘三郎の3人が、主要な役所を演じている。悲劇的な内容なのに、喜劇の要素がたっぷりで、笑いの壺を刺激する場面が多々あり、ユーモアたっぷり。他にも豪華な顔合わせで、海老蔵福助三津五郎橋之助勘太郎、猿の助のスーパー歌舞伎のスターが勢揃いしている。

 幕末、海港まもない横浜の遊郭「岩亀廊」で、若く美しい遊女が、カミソリで自害する。 その75日後に、自害した遊女の美談の作り事が瓦版として出回る。そこからこの遊郭の事情が変わって、話は流されて拡大されていく。

 途中、10分間の休憩を挟んで、2時間55分の上映時間、11時半、3時、6時半の3回の上映で、大阪の松竹ピカデリー劇場で。