譜めくりの女

 

日曜日、朝一番に、梅田のテアトルに行くと、映画の日なので、おめあての「つぐない」は既に立ち見席しかなかった。どうしようかと迷っていると、ぞくぞく後からやってくる女性達は皆、逞しくも立ち見承知でチケットを購入している。

 私は、無料の株主チケットなので、また改めて来ることにして、もう一つの映画「譜面をめくる女」の方に予約を入れた。というのも、レナウンの株主招待券をもらっていたので、そちらの方を先に行ってから、ついでに映画も1本見て帰りたかったから。

 地下鉄のコスモス駅で乗り換えて、モノレールで2つめの駅で降り、歩いて5,6分と書いているけど、実際には10分かかって、「レナウン花と実の会場」に着いた。

 会場は空いていて、昔のような活気はまったくない。以前は、両手一杯に買い物をした客に出会ったけれど、最近では、洋服よりもむしろ、その会場出口に店を構えている、食料品や、医薬品、実用品などの店で、どっさり買い物をして帰る人が目立つ。

 私は2時間、会場の中で、最も値打ちのある安そうなものばかり探して、コート2枚とセーター、カーディガンを買った。映画の予約をしてあったことを悔やみながら、大急ぎで会場を出た。会場の外に出ると、休憩のコーナーがあり、柿の葉鮨や、薩摩揚げ、パンなどが美味しそうに匂って来る。パウンドケーキは3つで1000円、油や乳製品、しいたけ、ノリ、などの乾物、小倉屋の昆布、コーヒー、紅茶に、化粧品に、健康食品など、どれもすごく安い。

 物価がどんどん上がっているので、買い込んでおこうという人達で、このあたりは混雑していた。空きっ腹をかかえて、通り抜け、走って地下鉄の駅へ。

 

 梅田に着くと、まだ時間があった。紀ノ国屋の前のイベント会場で、「ガムの日」というイベントが行われていいる。おじいさんの話が終わったところで、これから無料でガムが配られる。そのおじいさんは、有名人らしく、どこかで見た記憶がある。一緒に写真をと申し出る人達と写真に収まった所を1枚取らせてもらった。

 ガムをもらうのに待っている時間はない。近くの、マクドフィレオフィッシュを買い、水を買って、入館した。照明が消える所で、予行編を見ながら、手早く、音を立てないように気にしながらハンバーグを飲み込み、水を放り込む。

  このおじいさん、見たことあるなあ

フランス映画は、人間の心理を描いたものが多いが、これもその典型。神経質で潔癖性の完全主義の女の子は、音楽学校の受験を目指して猛練習する。落ちればピアノをやめる覚悟で。少女の出だしは順調で、素晴らしい演奏振りを発揮している。受験会場に入ってきた女性が,試験官の女性ピアニストにサインを求めると、彼女は演奏中にサインをする。自分の演奏を無視された少女は、全く調子が狂ってしまって、惨めな結果に終わる。

 大人になり、実習にやってきた弁護士事務所は、かつて自分を無視したピアニストのご主人の仕事場で、臨時の仕事で自宅に入る。交通事故の後遺症で、ピアノに自信がなくなっているピアニストに、譜面をめくる仕事を頼まれる。かつての少女は、ピアニストが持てる全て、ピアニストとしての生命、才能ある息子のピアニストへの道、夫との愛の生活、裕福な生活、全てを奪い、復讐を遂げる。静かに、優しく、怖ろしいほどの冷静さと残酷さエレガントさで、人間に潜む、欲望と嫉妬を見事にあやつって。いかにもフランス映画らしい映画だ。