南座恒例「顔見世」

師走と言えば、南座恒例の「顔見世」です。

行ってきました。

夜の部です。

3階の一番前の席が良く見えて、チケット代金が手頃なので、一番先に売れるようです。

あるにはあったのですが、その端席の角から、二等のB席で、そこが空いている日が一日あって、そこをゲットしたのですが、席の前は広くて良いけど、背もたれを使って座ると、舞台の半分しか見えません。なので、席の後ろにバッグをはめて、席の前半分に座って。

お金はただとらない、とはほんと。

 最初の出し物は、師走恒例の忠臣蔵を題材にしたもので、藤十郎秀太郎の台詞が全く聞こえない。イヤホン借りれば良かった。

 歌舞伎界の重鎮中の重鎮のお二人ですから、声が出ません。

 壱太郎さんと藤十郎は親子役ですが、おじいちゃんと孫の関係。さすがに若い役者の声は良く聞こえます。そこに虚無僧姿の、幸四郎さんが。

 幸四郎さんの声はやっと聞こえる程度。私の耳が遠いせいかなと思って、隣の女性に聞いたら、やはりその人も同じようでした。

 嬉しかったのは、元気を取り戻した、仁左衛門の「祭」

 仁左衛門の18番にもなっている、小気味の良い江戸っ子のいなせな色気たっぷりで、

それは見事に踊って見せてくれました。

 待ってました、の声がかかる、この「祭」は勘三郎も病気復帰で元気な所をアピールしていたのですが、仁左衛門も、去年の顔見世は、肩の手術で舞台に出られなかったのです。

 8年間も、傷みをこらえて、舞台に出ていたとか。

すっかり元気になって、すれはそれは見事な、魅力あふれる踊りと絶妙の間。後姿で踊る姿のなんともいえない形の良さ、息をひょいと抜いて、硬い表情からふわっとした笑顔を振りまく。

 舞台はあっと間に終わって、割れるような拍手です。ほれぼれさせていただいたわえー。

3番目は、「鳥辺山心中」橋之助と孝太郎のコンビは二回目。

  吾妻男と祇園芸者との道行とう、今回の東西歌舞伎にふさわしい出し物。結構良かった。

  でも、でも、最期の「爪王」で酔いました。

勘九郎七之助のコンビは、どこのどのコンビよりも健気で、しっかりタグが組まれていて、二人の演技の高上ぶりは、見るたびに驚かされます。

 若さ一杯。躍動感のある早いきびきびした動きで、呼吸も一つになったような緊張感も漂って、まだ、仁左衛門のような、ゆとりはないのは当然ですが、

切磋琢磨を繰り返しつつ、場数をどんどん踏んで行って、お客さんを、喜ばせることに集中しながら精進を続けている結果は、どの舞台にも現れている。

 素晴らしい、と口に出したくなってしまうくらい良かった。

隣の女性も、祭りと爪王で、師走を元気に過ごせると言って帰って行かれた。

南座を出て、信号を待つ間に、聞こえてきた二人ずれの粋な着物姿の女性達。

「最後で救われたわ。」

それほど、「爪王」で、七之助の鷹〈女〉と勘九郎の「猿」の踊りに魅了され、

また元気をもらったのでしょう。

その前の、「鳥辺山心中」も「九段目」も暗い芝居で、気が滅入るのはわかります。

昔は、顔見世が終わるのが遅くなるので、最期の出し物は見ないで帰る人もいたのですが、

最近では9時頃はねるので、最期の舞台は余韻を抱いて帰るに、ふさわしいものが選ばれるのでは、と思います。

その資格十分の「爪王」と「祭」これだけで、もう十分だとも思います。