松竹座10月は愛の助

  

  疲れている時は、頭が元気を出る食事を要求する。

最近、お肉が食べたくて仕方がない。

現に、気が付いてみると、毎日が肉食だ。

昨日は、松竹座に出かけた。

10月花形歌舞伎のチケットを無断にしたくなくて。

愛之助は、そう好きではないので、気乗りはしなかった。

芝居が始まると、咳き込みだして止まらない。

料隣の客に申し訳なくて、咳を我慢しようとすると、噴き出すように

出て来る。

のど飴を2つも口に入れ続け、水を飲みながら、収まらないので

出ようかと思った。

そのうちに収まって、後はなんとか、咳は出なくて助かったけれど、

疲れているので、座席がいつもよりも余計に狭く感じられ、座りをかえてみたり、

足を前の壁に押し付けてみたり。

2階の一番前なので、前の壁に手をかけたくなるが、背もたれにきっちり背中をつけて見るように、案内人から指示されている。

前の席の人が、前かがみになると、確かに後ろの席は見えない。経験ずみだから、よくわかる。

隣の女性はスケッチブックとマジックを2本持って、愛之助の動きを見ながら素早くスケッチしている。

見ると漫画のデッサンのような画き方で、特徴をとらえて旨い。一筆書で、するっと書いている。

愛之助の熱心なフアンらしく、面白いのか笑ったり、拍手に相当の力が入っている。

もう一方の隣には、老夫婦がいて、こちらは拍手なし。きっちりと行儀よく座って、微動だにしない。

私は背中をずらしたり、足を組み替えたり、斜めに身体を捻じ曲げたり、足を出したりで、

行儀の悪さを披露しながら、早く時間がたたないかとばかり。

そのまま、帰ってもよかろうに、終わるまではいなければ、と思っているところだけは律儀。そのうちに、しばらく寝しまったようで、気づいたら、真ん中が抜けていた。

 芝居は、贔屓の役者が出てないと、つまらないものだ。

何度も見栄を切るシーンがあって、同じような姿と顔を作るのも、滑稽にさえ思える。。

これがお気に入りの役者だったら、ほれぼれの連続サービスなのだから。

 昼食が遅かったので、お腹が空かない。

芝居が終わってから食べようと思っているので、休憩時間を持て余す。横になって、ごろんと寝たいのだけど、そんな場所はない。

 疲れているなあ、と感じる。

玉三郎の舞台とは違って、空席が目立つ。後ろの方は、ほとんど空いてるので、そこに代わりたいのだけど、案内嬢が見張ってるので、それも出来ない。

休憩を挟んで、芝居が佳境に入っていると、面白くなって来た。

勘三郎が、平成中村座で、人気をはくしたお芝居なので、これを選んだのだけど、役者変われば、なんとやら。

やっと終わって、はり重のカレーショップにかけこんだ。

8時半ともなれば、空いてる。

ビーフかつ定食を注文した。

混んでる時よりも、付け合わせのスパゲッティーが多く、ご飯も山もりで出て来た。

デミグランソースが美味しい。カツは勿論柔らかくてジューシーだ。

私はここに来るまでに、舞台を見ながら、カツカレーにしようか、ビーフかつにしようか、

それとも肉丼のビーフワンが良いか、と考えめぐらしていた。

そして、決めた。だから、店に入って、すぐさま、ビーフかつと言えた。

この美味しさ。これで900円いうのも、ありがたや。

東京の気取った洋食屋に行けば、2000円はくだらないだろう。

 病気だから、何を食べても気にならない。力をつけにゃやいけん。

そうだ、はり重の、おばんざいを買って帰ろう。おばんざいとは、細切れの肉のことなのだ。ロースの切れ端を使っているので、上質のお肉が、100グラム420円で買える。

母と松竹座に来ていた頃は、母が良く帰りにこの店の肉を買って帰った。私にも買ってくれた。

父は肉好きで、野菜嫌いだった。母の母親も、肉好きで魚嫌いだった。

そういう環境に育った母も、肉が好きで、魚は生臭いのが苦手。

私達子供も、魚よりも、肉を食べて育ったせいか、肉が好きなのだ。

身体の為に、魚が良いからと、肉を控えてほとんど食べなかった反動がきたように、

今は毎日、肉づけ。

咳で肉体の消耗が激しい分、肉や卵を身体が要求する、と思っていたのだけど、

食べたいという信号は、頭のどこかでするもの。

コンピューターをしていると消耗してお腹がすくと聞いたことがある。

最近、芯から疲れているような気がする。

ひとつ、元気になるニュースがあった。

玉三郎七之助の舞踊公演が正月公演で、一か月、この松竹座で行われる。

待ちに待った、二人の共演。

嬉しや、嬉しや、である。