コインブラ

   

    

   コインブラへの列車に乗った。私の列車の名前が23、席は119番。ベンチで、座っていた女性に、どこで待てば良いのか聞くと、ここでという。

 23列も電車があるのか、と思った。21から23までの3レーン。

 席は,最後の席だった。隣に中国人の若い女性達。ポルトワインを買っている。

 彼女達はリスボンまで行くそうで、途中のコインブラに降りるので、何時につのかわからない、というと、私の前にいた男の人が、1時間です。私も降りますから、と言ってくれたので、ほっとする。

 コインブラbに降りて、さて、一駅,コインブラ駅、どっち?ときょろきょろ。さっきの男性が,僕も行くから、と一緒に3番ホームまで来てくれた。

学生か?と聞くと、働いているという。ポルトに住んでいる。私はリスボンから来て、ポルトの方が好きだというと、彼もやはり,リスボン嫌い。

川沿いの町は心も潤う。

一人では勿体ないね。

コインブラは、ポルトガル最古の,大学都市。駅前のホテルにして正解。すぐにわかった。

 とても良いホテルで、受付の男性はとても親切。ファドと書いているので、ファドが聴きたいというと、ここでチケットが買えるという。

   

 7時半から始まるというので、教えてもらった道をたどって、その場所に行くと、9時半からだという。始まりは10時。大丈夫かな、と思った。

 まだ充分時間があるので、その辺を歩く。阪道から人が降りてくるので、そこを上がると、小さな広場になっていて、一杯人がいる。無料のファドが、毎日6時半からある。勿論、食べ物と飲み物も売っているのだけど、なにもなくても路上に座って聞いていられる。

 そこをさらに上がって行った。

 夫婦ずれのご主人らしき人が後から。鼻歌を歌っていたご主人が、私に声をかけた。 何か助けることはありますか?と。

前にカテドラルが見える。

 カテドラルを見て、大学の図書館は、素晴らしいので、是非見に行けという。

奥さんが,月曜日まで泊まっているの?という。

 私はまだ一泊しか取っていない。受付の男の人は、明日、見物してみて,時間なかったら、またホテルに来ればよい、と言っていたが、私はもう一泊すべきだと思っていた。

 疲れすぎて、唇が乾燥し,荒れ始めている。いつもこうなると、披露が蓄積している証拠。

 ご主人に,教師か、と聞いた。そんな風な知識人風の感じの良い人。奥さんが教師で、ご主人はロイヤー。二人はこの町には今住んでいない。隣町だそう。リタイアーしているけど。私もだ、と言った。

  とても陽気で親切な人達ばかりに出会う。ポルロガル人が気さくで好きで、海辺が好きだった、檀一雄の気持ちわかるなあ。

この坂で,ぎっくり腰になる、と言って笑っている。確かに、この坂はきつい。

   

 そこで別れて,私もカテドラルに入った。ミサの最中だった。

 12世紀のゴシック建築。シンプルで私はjこのほうがずっと好き。しばらくじっとしていたくなる。

 修道女が幾人かいて、皆相当の年寄り。終わってパイプオルガンが響き、皆、それぞれに散って行く。

 私も外に。修道女達が、支えながら,きつい坂を踏みしめるように登っていく。これは本当に大変だ、これが修行なのかしら?

   

 大学だという,阪道を上がっていった。景色の美しさを称えた,バイロンにあやかりたいと。

 でも景色の素晴らしい所にはいくつかない。少し見える所から、諦めて戻って来た。ファドは終わってして、店じまいをしている。

  

 町を歩いて、ホテルにもどった。まだ時間がある。夕食はたべないつもりでいたけど、お腹が空いた。

 5階にあるバーに行った。そこから素晴らしい眺め。探していた場所は、灯台元暮らしだった。

ファドで寝てしまったらいけないので、スープで我慢、美味しかった。スープを飲まない人何だけど、疲れている身体に優しく入って行く。

  

病気の人が飲むスープもこんな感じなのかもしれない。 それだけではお腹が持たないかもとサンドイッチも頼んだ。サンドとなると、ワインが欲しくなる。でもめた。

9時半になって、ファドの店に行くと、沢山入っている。

私は一番前の端席を案内された。ファドチケットは10ユーロで、飲み物は別に注文するようになっている。

 私は小さい生ビールを注文。

 コインブラでは、男の人がファドを歌う。

黒マントをひっかけて歌い。ギターとマンドリンの2人の演奏。

 本格的なファド。

 テノー歌手の声量を持つ人で、自信に満ち、スノッブな感じの文人タイプ。

ギターとマンドリンは、大学生で今年学位を取る人達。

 男の人が歌う、コインブラのファドは、古の吟遊詩人を思わせる。

貴婦人への切々な愛を告白し、その美しさを称えるという,愛の歌を。

マントを羽織っているのは、身を隠すという意味だろう。シラノ、ド、ベルジュラクのように、身を潜めて、愛の歌を捧げる。たった一人の、恋する貴婦人に。

コインブラのファドが、気品があって、紳士的だ。

 演奏家の肩に手をおいて、彼らを労り、包みこむようで、余裕のある教授風の歌い手。

 歌い手の友人が来ていて、有名なアーティストだと紹介、そかも素晴らしいファドの歌い手だから、とステージに上がってもらった。

 おじいさん。ピカソの頭を白髪にしやような人。自然体で、それでいて、どこか違う。歌は素晴らしくて、歌手よりも良いぐらい。何度も聞いていたい。ソフトと力強さの起伏,熟年の落ち着いた声,情熱の深さが心に響く。

アンコールの拍手に湧いた。

時間が経つに連れ、家郷に入っていく。人も多くなり、2階席も満席。

帰りたくなかったが、時間は12時。一人で細い道を帰るのが怖い。それにもう寝ないと。と店を出た。

なんのことはない。通りや町に、子供達までいる。眠らない町なのかしら。一度来た時に、路地裏で鰯を焼いて、外のテーブルで家族が一つになっている姿を見かけた,その人達かな。

 

ホテルに戻って、まだちょっと飲みたくて、5階のバーに。バーは1時に閉まる。

地元の人達だろう。ウイスキーの瓶を置いて、カード遊びをしている。

 もう一本ビールを飲んで,部屋に帰った。