母を想う

        

 母の所に行くと、両手を広げて、「良く来てくれたわね。」とハグしてくる。

昨日、ここに来たことはすっかり忘れているのだけど、毎日行くのと、2,3日たってから行くのとでは、違うように思うのは、私だけの受け取り方なのだろうか。

 喜んでくれる,その笑顔がみたくて、私は,車を走らせて,会いに行く。

 忙しく家族の世話に目が行っている子供達なら、そうそうは、母親のことにまで、心が及ばない所だけど、1人で暮らしている人間には、母のことがいつも心の中にあって、

 出かける予定のない日には、ほとんど毎日のように、母に会いに行かねば、と思う。

 実際の所、やりかけの仕事を中断して、明るいうちに、行かねばならないので、生活はいつも中途半端で、家は散らかっている。

 帰りにコナミに寄ると、その夜はもうなにもしたくなくて、テレビの前に座ったり、寝転がったりして、日が終わる。

 明日は、と思う。

明日は,早くから起きて、動きまわって、片付けて、昼から、母の所に,余裕で行こう。 母は、行くと、「ここに一緒に寝られるかわよ。ちょっと待ってで。」と立ち上がり、自分のベッドの布団を整える。充分きちんとしている母なのに、二人で寝られるかどうか、確かめるように。

 「ええ、ええ、ありがとう。」と私は母を安心さでながら、何度も同じやりとりを繰り返しながら、暮れないうちに,施設を出ていく。

 母は、「その辺まで送っていくわ。」と私のカバンを肩にかけて、部屋を出る。

 重いから、私に持たせないように、と。

最初のうちは、「いえいえ、私が持ちたいのよ。」母の身体を心配して言っていたけれど、 それも運動のうちだから、それほど重くしないようにして、母に持ってもらっている。

 戸口で、母は,施設の職員の手をふりはらうかのように出てこようとする。

 「ちょっと、待って。そこまで。」と言うのを、戸口で抑える職員。

 私は、

「明日又、来るから。明日ね。」と言うと、

「そう、また来たら良いわ。来てね。」と納得して、私が手を振りながら車に乗り込むと、、身体を乗り出すようにして、職員に支えられて、戸口に立って,手を振る母の顔。

母は、すぐに、私が来たことも忘れるのだけれど、私は、つらい思いをひきづって、ハンドルを握る。