映画「コックと泥棒とその妻と愛人」

    

   

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=nXLRdeYFHss

   友人から借りていたビデオ「コックと泥棒とその妻と愛人」という映画を観た。

 殺した鳥の毛をむしり、料理をするコックを、腹を空かした泥棒は、口から入れる食事を待てないで、わめきちらしている。

 映画の冒頭の部分で、人間の欲望を映像で表現している。

泥棒に、痛めつけられ、裸にされた男が、厨房の中に、入ってくる。

 コックは、椅子を差し出し、泥にまみめた身体をホースで洗い流された男は、うちひしがれた姿で椅子に座らされる。この男は、キリスト、イエスを表現している。

 天使のような声で、罪のあがないを歌い上げる、金髪の子供。

 ああ、なんと罪深い存在であることか、人間の欲望の、なんと醜悪であり、そしてそれが愛と呼ばれ、神秘なもの。

 グルメとは、欲望の果てなきもの、渇きを癒すもの、人間の恐ろしさ、殺戮の血を求めるがゆえの美、食らいつくすことの欲望。

 この映画、私の好みではないけれど、五感にするどく訴えてくるので、秀作の一つであることは確か。

 ディーバを思わせる、美術と撮影、心臓の鼓動を刻むような、音楽のリズム。

 レストランの中の客達は、時限の違う世界で、食事をしているようで、メインテーブルに座って、最後の晩餐、さながらに、悪人達の真ん中に、泥棒の親分が、絶えず、しゃべりっぱなしで、沈黙を恐れるかのように。

 5分しゃべると、愛が冷める。欲望を鎮めるのは、「言葉」

 本ばかり読んでいる、妻の愛人は、紙を詰められ、殺される。永遠の沈の世界。

 殺された愛人の口に入った紙を取り出して、妻は、そのそばに横たわって、亡骸に語りかける。

 キスしてくれないの?

食べることは、欲望。どんなにお腹が空いていても、口に入れ、満腹すれば、欲望は消える。 食べることを忘れ、妻と愛人は、キスしあうことで、満足することはなく、欲望が消えることもなく、愛は消えることがない。

  ルイス、ブリュニエル的な映画で、シュールな美的世界を、こういう手法で描いてる。美的な空間、舞台芸術的な空間を大切にすることで、映画芸術と呼ぶにふさわしい作品になっている。