松竹座「団菊祭5月大歌舞伎」

   

 5月の松竹座は、東京から、菊五郎団十郎を迎えての「団菊祭五月大歌舞伎 」の公演です。

 昨日の昼の公演と、今日は、夜の部に行きます。

  昼の部の出し物は、「菅原伝授 手習鏡」「身代わり座禅」「封印切」の3作です。

 どれも、良く上演される出し物で、歌舞伎好きの人なら、何度となく観ているもの。

 「菅原伝授手習鏡」の寺子屋の場は、18番の中でも、特に人気の高い作品です。

松王丸を、今回は、尾上松緑、その妻を、菊之助が演じ、寺子屋の師匠。式部源蔵を、海老蔵が演じています。

 この芝居は、主に、この三役が主役と言っても良いお芝居で、それそれの役所は難しいものがあります。

 今回の「寺子屋」では、松緑の松王丸は、健康的に肥えていて、病み上がりで、髪の毛が伸び放題に膨れあがった頭に、やつれ果てている筈の、松王丸なのですから、どうしても、ギャップを感じざるを得ない。

 私の脳裏に、焼き付いている、仁左衛門の松王丸は、哀れを漂い、忠義とはいえ、親が子を身代わりに死なせる、切なさ、情愛の演じ方、声色が、涙を誘うので、物足りなさを感じてしまいますが、

 が、それを補うのは、菊之助の、母親。 はかなげで、気品があり、美しい母親の、控えめな演技は、その物腰、声の透明な美しさも、言うことなし。

 忠義に役立つ喜びを、松緑は、東芸の潔さ、男ぶりの良さで、上手に演じていますし、 子供を追って、死に装束を下に着ているのですが、きっぱりとした潔さも。

 海老蔵も熱演で、情愛深い、人間的な源蔵の姿を浮き彫りにするような演技でした。

「身替御前」は菊五郎の当たり役で、団十郎の奥方とのコンビで大いに笑わせてもらえます。

「封印切り」は、山城屋の坂田藤十郎の忠べいと、菊ノ助の梅川が見物です。

  上方は、「和事」関東は「荒事」と言われるのですが、この「封印切り」の忠べいには、私はあまり魅力を感じられないのですが、演技そのものは、完璧なのです。

 私は、粘りのあるしつこさ、のようなものが、どうも肌に合わないようです。

 べちゃべちゃ、ねとねと、という感じが好きではないのですが、物こなし、間の取り方、 完璧な演技です。

  菊ノ助の梅川は、色町の女の風情を漂わせた遊女ですが、次第に、一途な愛を可憐に演じわける様子を美しく演じています。

 尾上菊之助が、いつのまにか、随分旨くなっています。前は、美しいけれど、物足りなさを感じていたのですが、すっかり、妖艶で、色っぽい女形を演じる役者に飛躍しています。

 お姉さんも、演技力の優れた、魅力的な女優なのですが、菊之助も優るとも劣らず。

 菊五郎を継げる、立派な役者ぶりです。