そば料理の店「侘び助」

 

母を迎えに行った。母の部屋は、誕生日のプレゼントの花で、明るくなった。

弟が予約してくれていた、そば屋に、弟夫婦と娘、妹夫婦、母と私の総勢7人での会席が始まった。

母を弟から離して、一番奥の席に。私がその横に。

 ビールで乾杯、最初の一品が運ばれるまでは、久しぶりに会ったので、時間が気にならなかった。次に運ばれているはずの料理が、なかなか出てこない。

 懐石のコースを、あらかじめ予約していたのだから、頃合いを見越して出てこなくてはいけないはずだ。

 美味しい料理だけど、呼び水のように、ちょこっと食べて、お腹が次の料理を要求している。

 こんなに遅いとは。気の長い私達だから、話好きの家族だから、なんとか、かんとか言いながら、最後のデザートが出てくるまで、3時間かかった。

 品書きは、そばの店なので、盛りだくさんあったわけではない。

30分に一品出てくるという間隔。料理の味は、とても良かった。

 毎晩、どこかの居酒屋で、飲んでちょこと食べて暮らしている、飲み助の友人達には、

 絶賛される店だろう。ぐだぐだ言いながら、お酒メインで、4時間を気にしない人達には。

 お腹を空かせて、食べたい気の短い人なら、まず、一品目を待てないだろう。

 

 

 母は、息子の話が話題に出ると、突然、大きな声で歌を歌い出した。

城崎からの行き帰りに歌っていた、「雨がしとしとと、」という歌。

何の歌?聞いた事ないね。母はお酒が回ってきている。

お料理が来ないね。遅いわね。歌い終わって、お腹が空いているらしい。

侘び助という名の店なのだが、料理が侘び助という感じ。

料理は、確かに美味しいし、量がないのも、私には嬉しい。ここは、酒が主の店で、料理は、あて、なのだ。

酒飲みは、塩をあてにして飲むと言うでしょう。美味しい料理がほんの少しあればよい。酒のじゅまにならない程度にあればよい。

車を運転してきた妹の旦那さんは、「酒を飲めないので、持たないわ。」と帰りの車の中で。酒よりも、車で来る方が良いという人だから、お酒が好きなわけではない。盛りだくさんに、食事があるほうが嬉しい。

母は、一品目は、水ナスが美味しくないと言い、あとで美味しいと言い直し、二品目の暖かい椀物は美味しそうに。三科目のお造りはぺろりと食べて、お料理が遅いと言っていたけれど、メインの、鰻のそばが来ると、いらないと言い始めた。

 器に入れると、美味しいと言いながら、半分ほど食べていた。

次に出た、鮎と、天ぷら、魚のご飯は、全く手をつけなかった。

もうお腹が一杯で食べられないと。

 厚焼き卵は、一切れ食べた。弟の一言で、「へい」と言って食べていた。母は梅酒にワイン、ビールまで飲んで、酔っている。

 そば屋のだし巻きは、出しがたっぷりの柔らかいのが特徴。美味しい。

最後に出て来た、デザートに、母は夢中で手を動かして食べる、食べる。

すごく美味しいデザートだ。

私は自分の分を、食べ終わった母の前に。無我夢中というのはこんな感じ。

規則正しく、気ぜわしくスプーンを口に運んで、瞬く間に食べ終えた。

 

城崎に行ってから、この所ずっと、母の顔色も、表情も生き生きとして、元気だ。

 翌日、母は寝込んでいるのではないかと心配したけれど、全く疲れを知らないようで、元気一杯。お酒の影響は全くない。

デザート

皆忙しい毎日を送っているので、なかなか一緒に、食事をして話をする機会がないけれど、たまには、こうして寄り集まると、いいものだな、と思う。

震災で大変な時期だけど、幸せを大事にする事が、それぞれの人に取って、大切なのだと思う。いつ何が自分の身にもわからない。

 一期一会を大切にして、萎縮しないで、それそれが、それぞれの場所で、元気に暮らせるのが大事。

 家に送ってもらうと、偶然に、息子達が帰って来るのと一緒になった。

 偶然とは言え、出会えるとは、縁。