母は幸せだ、と思えるようになった

 

 友人と久しぶりに、昼食を共にした。

おしゃべりしながら、美味しいものを食べると、元気になる。心の中のもやもやも解消されるし、何よりも、誰かと一緒に食べると、美味しい。

 地下街にある、神戸屋の出店で、ナンバーワンの売れ行きだという、マンゴーが一杯のディニッシュがある。8月末日までの限定商品。

 叔母に買っていったら、美味しかったと喜んでいたので、先日、母にも一つ、買っていった。母は、喜んで冷蔵庫の入れたものの、職員が部屋に入って来ると、何かあげるものはないかしら、と冷蔵庫を開いて、そのパンを出し、あげていた。

 もう、8月も終わり、マンゴーパンのことを思い出した。地下の店で、こんどは2つ買って、母に会いに行った。

私が面会に行くと、母はトランプをしている最中だった。

ばば抜きをしていて、すでに2回の勝負が終わった所で、

「お母さん、いつも1番に上がっています。強いですわ。夢中になっておられますよ。」と扉をそっと開けて、母の様子を話してくれた。

「母は勝負事が好きで、父と良く、賭をして、母がいつも勝つので、父はそういうとき、機嫌が悪かったのですよ。」

母には言わないでもらって、

私は部屋に上がって待っていることにした。そういう風に待っていることが、最近多くなっている。

私の顔を見ると、母はとたんに、していることをやめて、私を気にかけるので、母が夢中になっていたり、隣のご婦人と話しをしている時には、中断したくないのだ。

 

机の上に、わかるようにパンを置き、戸棚に、おせんべーをん2枚入れた。

冷蔵庫の中は空っぽ、戸棚に入れていたおかきの箱もなかった。

毎日のように、果物とか、お菓子を買って持って行く。翌日には、無くなっている。冷蔵庫が来てから、母の顔が丸くなり、肥えて来ている。コーヒー用の砂糖も、ミルクも、すぐに無くなる。

果物の果糖が多いので、母の身体の為に、少しづつにした方が良さそうだ。

いつもは、しばらくすると、看護師と一緒に、部屋に帰って来るのだけど、日曜日なので、コナミが早く終わる。上がって来ないし、パンを入れたので、母に会わずに、このまま帰ることにした。

母はまだ、トランプに夢中の様子だ。

先日、母が、

「私、一番になったのよ。皆がすごい、一番と言ってくれるの、何で一番になったのか、わからないのだけど。」と嬉しそうに言う。

ホームでは、毎日、何かしら、日課が組まれている。

朝の体操から、昼食後には、書道や、音楽タイム、塗り絵や、折り紙、絵手紙に、トランプや、百人一首、映画会に、エンジョイタイム、リハビリをかねて、楽しく運動を促すゲームなど。

母の部屋に、書が貼ってある。なかなか上手。力強い筆跡だ。折り紙を利用した貼り絵も貼ってある。

今のホームに入って、母は最近、落ちついてきて、お風呂もいやがらないで入るようになり、頭も以前よりもしっかりしてきて、身体も元気になっている。

持続性が出て来て、塗り絵など、職員が感心するほど、綺麗に仕上げるそうだ。

トランプの神経衰弱、百人一首も、集中力があって、一番沢山取るのだ、とか。

施設によって、入居者の生活は、随分違う。

母は、幸せだ、と思えるようになった。

人間、誰しも、自分で、自立した生活が出来なくなる日が来るだろう。

美味しい食事、手厚い、心の行き届いた、思いやりのある介護、頭も身体の、それなりに、健康を維持できるような、環境が整っている、中で、生活出来るのは、幸せだ、と思う。

男の子の、優しくて、可愛い介護士は、おばあちゃん達の心を若々しくする。

母は、お気に入りの介護士が、食事の迎えに来ると、仲良く腕を組んで、足取りも軽く、ダイニングルームに行く。

「ラブラブ」のご様子。

おじいさんは、若くて可愛い女性のお迎えに、情熱の火を注がれるだろう。

以前の施設で、今も生活している人達に思いを寄せる。

かといって、ご家族に、紹介するわけにはいかない。

それぞれに、考え方があれば、事情も違うから。

親の年金を、自分達が生きる糧にしている子供もいる。死んでも、弔ってあげられない人達の、辛い、悲痛な事情もある。

親子なのだから、出来ることなら、親には、幸せな人生を送らせてあげたい。誰も思いは同じだと思う。出来る人間は、幸せなのだ。

貧しさが, 人間を蝕んで行く事実を突きつけられる、昨今の現状に、同じ、親を持つものとして、やがて老いていくものとして、胸が痛くなる。