ホーム通い

 

 母が、ホームを変わってから、出来るだけ毎日、顔を出している。

 おやつが終わった頃に行って、夕方夕食の前に帰る。

 母の部屋に入ると、母は決まって、出かける準備をしている。

「あら、来たの?これから、出かけようと思っていた所なの。」

 母は窓から外を眺め、子供達が行くのを眺め、ここから出て、どこかまで

行けるだろうと、出ていく準備をする。

 外は熱い。散歩しようか、と少し歩き始めると、すぐに疲れた、と言ってホームに戻る。 元気そうに見えていても、心不全があるので、無理をさせてはいけない。

 昨日も、母は出かけたがった。もう夕食の前だったので、玄関まで見送ってもらって帰ろうとしたら、いつもになく、強行に意志を発揮して、出かけるのだと言い張った。

 「お腹は空いていませんから、どなたか夕食は食べてもらってください。」

思うに、冷蔵庫の中に入れていた、水菓子を食べて時間が経っていないようだ。

 小さな冷蔵庫を買って、その中に、従姉妹から送ってきた、水菓子を入れていた。

 次の日には、食べていなかったので、あと、もう二つ入れて帰ったら、その翌日、つまり昨日なのだが、二つ食べて、洗面所に洗った容器を置いていた。

 タッパに入れていたぶどうは、タンスの中に入っていて、まだ少し残っている。

 コーヒーの空き缶があるので、入れたはずはないのだけれど、と手に取ってみると、以前の施設で作った、万華鏡の缶だった。セロテープを取って、穴の空いた缶になっていた。 

 「補聴器の電池を換えました。」とホーム長さんに言うと、「どうして換える時期がわかるのですか?」と聞かれた。

 「母の声が大きくなるのです。そんなときに、聞こえる?と聞くと、聞こえないわ、と答えますから、電池を交換すれば、母の声が小さくなります。それとも、補聴器を出すようになると、換える時期です。」

 母の状態を把握出来るようになるまでには、時間がかかる。お風呂に入るのをいやがったら、あの手、この手を使って、なんとか入るようにしなければならない。

 ホームでは、無理強いはしないので、そのまま入らずにおくことも。

 身体が悪くなければ、週に2度しかないので、なんとか入れてほしい。

 今日は、お風呂の日。館内は、冷房が効いているので、湯冷めしますから、と断っているかも。

 昨日、帰り際に、出かけると言い張る母をなだめた。

「今日は車で来ていないから、明日ね。明日、どこかに行きましょう。」

今日は、お風呂の日。見に行かなくちゃ。昨日の約束はを母は覚えていないだろうが。