母の心 子知らず

  

 

 久しぶりに、息子から電話がかかってきた。

 私の腰を心配して、かけてきてくれた。

 いつ帰ってくるのよとけしかける。

 母は、毎日、息子に会える日を待っている。

 「アメリカなんて、嫌い。どこが良いのかしら。

 私は日本人だから、日本が好きだわ。」

 祖母の心、孫知らず

 母の心、子知らずなのに、当然だろうな。

 会社の上司がやめたので、仕事の量が増えて、

 飛行機の勉強をする時間は、ますますなくなった

 と、ぼやく。

 会社やめようか、と。

 またかいな、いらついてくる。

 「やめたら、給料もらえないし。」

 あたり前田のクラッカー

 「僕、考え中」で、踏ん切りがつかない。

 ずるずると仕事を続けるのは良くない。会社に残るのなら、飛行機は趣味にする。飛行機で立ちたいなら、会社をやめる。

 二頭を追うものは一頭を得ず

 飛んで、飛んで、飛ばなきゃ。これしかない、となれば、

猪突猛進、目的に向かってまい進できるわよ。

 心配して電話してくれているのに、私は、相変わらずの

お説教を垂れる

人生って、それほど甘くないよね。

 食べて行かなくちゃいけないし、その中で、夢を実現させようと、努力している人、一杯いるよね。

 息子の方が、私よりも、ずっと偉いのに、

 親面しちゃって、彼がわかりきっていることをがみがみ

 「日本に帰って、仕事探したら?」

 「それはありえないね。65歳までは、アメリカで働く

 つもり」

 「じゃ、私はどうなるのよ。」

 「お母さんは、そろそろこちらに来る準備しておいた

  ほうが良いよ。」

 母の心、子知らず

 私の母を通して、子供の非情さ、身勝手さは、

 痛いほど、認識しているつもりなのに、

 そう言ってもらうと、嬉しい

 私も、弟達にしても、母と一緒に住みたいと思っていた。

 元気でいる限り、お嫁さんとトラブルを起こさない限り、

 自分たちの生活に、支障がないかぎり

 

 母の心 子知らず 

 やがて、自分にも、母と同じような時がやってくる

 その時になって、母の気持ちがどうであったか、わかるだろうか わかっても、遅い

 自分の老いを、なすすべもなく受け入れるだけ