ひな祭り

 

施設から、おひな祭りに集まる時間の案内があった。妹と弟のお嫁さんにメールで連絡した。 

 妹が娘二人と赤ちゃんを連れて、来てくれた。 

 

 おひな祭りと言っても、他の行事と同じで、することは決まっている。皆で、唄を歌うだけだけれど、家族が側に寄り添う、ということが、一番の行事だ。

 いつも難しい顔をして、周りの人に説教ばかりしている人の笑い顔を初めて見た。

あんなに、優しい顔を見たことがなかった。

 親子揃って、美人揃い。

 3階の入居者と合同で、今回は、3階で行われた。

 母は長い間、3階の人達に混じって、3階にいたので、入居者の顔ぶれはよくわかっている。

見たことのない人がいた。入れ替わりがあったらしい。

 一番若い人がいなくなっていた。可愛い人で、私が一番好きな人だった。

 妹付き添ってくれているので、私は4階で、母のサプリメントを袋に詰める作業をする。姪達も4階の母の部屋にいた。それぞれの赤児は、すやすやと眠っている。

 4階では、介護士が、雛祭りのパンを焼いている。素人はだしの出来栄えだ。

「わあ、すごく綺麗ですね。パン屋さんみたい。」と私が言う

「パン屋に勤めていましたから。いずれは、パン屋さんをしようと思っています。」

 そうか、それで、この施設で、毎月パンの日があるのだ。

 3階に下りると、歌会は終って、それぞれの階で、これからおやつの時間。

介護士さんが、焼いた、アンパンが、お雛祭りのおやつ。

参加している家族にも、ふるまわれた。

母は、食べずに、妹や娘達に 食べさせようする。

「皆、もらっているのよ。」と言っても、大好きなアンパンなのに、

食べようとしない。

私が、誘い水に、小さく切ったパンを口に中に無理やり入れた。

母は、それが美味しくて、自動的に、手と口を動かし始めた。

「美味しいわ。」

私は自分用にもらったパンを母の机の中に入れた。夜のお楽しみ。

妹達は、昼食をまだ食べていない。外出届には、前もって記入しておいたので、

おやつの時間が終わってから、隣の神戸屋に行った。

母は、ここでも、なかなか、自分から食べようとはしない。赤ちゃんに気を取られている。

母と私は、いつものシューとコーヒーとの組み合わせを注文した。

私は、母の目の前にお皿に、シューを乗せ、サラダを分けてお皿に。

母が、いつのまにか食べ始めた。食べ始めると、次から次に、シューに手が行く。

サラダバーのパイナップルを乗せると、それも美味しいと言って食べている。

「エレベーターに一緒に乗って来た人が、パン代300円請求されてたけど。」妹の娘が言う。

「聞いてないけど、施設に帰ったら、聞いてみるわ。」

 妹達と別れ、施設に母を送り、パン代のことを尋ねると、

 お金を払わないといけないようだった。

 一人300円ではなく、200円、人数が多いから、まけてくれたのかも。

 何かと言えば、お金。どこでもなのかしら。世知辛い世の中。