手造り、万年筆、大橋堂

 

 神戸のそごうで、東北物産展を開催中です。20年以上以前のことのように思います。 東北出身の人の勧めで、万年筆を買いました。手作り万年筆の大橋堂、という店でした。当時は、ご主人の植原栄一さんが、実演販売されていました。

 今のように、美しい模様のあるものは、ほとんどなくて、ほとんどが、黒い万年筆で、万年筆の軸になるのは、エボナイト。プラスティックに比べて、コストも高く、手作りでないと出来ないので、生産量は、少ない。

 全国各地のデパートでの、物産展で、紹介するようになって、ここ20年くらいの間に、愛好者が増えている。

植原さんは、13歳から、万年筆づくりを初めて、2005年には、現代の名工に選ばれた。現在は90歳になられる。

 お弟子さんが、デパートを回られるようになって、随分長くなるが、宮城で、手作りの万年筆づくりに携わっておられる。

  クリーニングの案内はがきが、買った人全てに、送られる。宮城に送れば、いつでも、掃除、修理はしていもらえるけれど、近くのデパートで、メンテナンスをしていただけるので、便利だ。

 掃除をしていただく度に、書かなくちゃ、と思うのですが、三日坊主。最近でコンピューターを使うので、書くことがほとんどない。

 今回回っておられる、お弟子さん、と言っても、長年植原さんの元で、働いて来られたベテランの方が言われる。

「書いている人にはかなわない。いくら達筆な人でも、書かないと、書いている人にはかなわない。」

 そうなんだ。下手が書かないのだから、益々ひどい状態であるのは、当たり前。

 掃除をしてもらって、インクを入れるかと聞かれた。

インクを入れると、毎日書かないと、インクが詰まって書けなくなる。

 

 万年筆の掃除を依頼している間に、東北物産展を見て回っていた。寒い地方では、どこでも、手工芸品の素晴らしいものがある。

 手工芸に、以前は興味が薄かった。生活に追われ、時間はいつまでも存在すると思っていた。

今は、手間暇かけて、手工芸一筋に生きてきた人の作品に、特別の感銘を受ける。感慨深いものを感じる。

 秋田伝統工芸の、川連漆器、というコーナーで、足が止まった。漆器の美しさ、手に取ると、木の軽さ、手触りが何とも素敵だ。

  ほしくなった。漆器の塗りは2万回耐えるという。修理をしてもらえる。適する木がなくなっていく、と聞いた。

 汁椀と、いなにわうどん用の椀を、買った。衝動買いではない。毎日、それを使いたい。人の手で、心を込めて作られた、食器を大切に使いたい。これから先、そういう生活がしたい。つくづくと、そう思う。

 

漆器塗りのテーブルも素晴らしかった。

 紹介している、職人さんは、20年以上、同じテーブルを使っているとか。小さなテーブルなので、日当たりの良い場所に持って行って、書き物をするという。

 

 母は、ほしかった、タンスを、好きな工芸を、主なき、住まいに置いている。母が、そのマンションを買い、調度をそろえた気持ちが、今になって理解できる。