腫れものには、触れない方が無難

 

 クリスマスイブに、グループホームでクリスマス会が開かれた。昼食を終えた頃、家族が参加した。テーブルを片づけて、4階の部屋に椅子を入れ、入居者と家族が並んで座る。歌のテキストが手渡され、クリスマスソングを皆で合唱する、という趣向だった。昼食の洗いものが山のように積まれているので、キッチンで洗っていると、ナフキンで拭くのを手伝ってくれたのは、2カ月前の運営委員会に出席していて、その前日に、入居された方の息子さんのお嫁さんだった。入居者の奥さんと一緒に、クリスマス会に参加しておられた。

 入居されてから、奥さんは、毎日、ご主人のもとに通われていた。私も、昼食時に、ご主人に寄り添っておられる姿を何度か拝見していた。

ところが、施設の代表から、電話がかかり、お嫁さんが言われたことには、

「一人分の食事代しかもらっていないのに、二人分かかる。毎日来られて、一日中おられると、一人分の料金で二人分世話をしていることになる。お母さんは認知症にかかっています。私は専門家だから、わかります。面会は、週に1度くらいにして、1時間か1時間半くらいで帰ってもらいたい。」というものだった。

奥さんは、そのことをお嫁さんから聞かされて以来、土日、祝日に、息子さんに連れて来てもらう以外に、来られなくなったという。

「私は、 食事を一度も頂いたことはないですし、一人で食事が出来ない主人だから、傍で食べる手伝いをしていただけです。果物が好きな主人が、おやつに一切れほどの果物しか当たらないので、タッパに入れて持ってきたものを食べさせてあげていたのですが、そういうことを言われて、来れなくなりました。私に直接言うのならまだしも、嫁に言うなんて。」と。

奥さんのお気持ちは痛いほど理解できる。朝、起きると、傍に御主人のいないベッドがあるのを見て、どうしているのか、気にかかって、とおsっしゃる。

[お気になさらずに、来られたら良いですよ。]

「いいえ、来ません。ここにいると、早く帰らなくちゃとそればかり考えます。」

お嫁さんが、先に帰ると言われる。

[母の話を聞いて、話してやってください。]

一緒に帰ると言いはる奥さんに、

[私がまだいますから、傍に寄り添ってあげて、ケーキを食べさせてあげてください。喜ばれますよ。]と誘った。

94歳の御主人を気遣い、寄り添う、奥様も、すでに随分なお年、杖を頼りに、息子さんに車で、出勤時に連れて来られていた。帰りは、タクシーを拾って、帰っていたと言われる。雨の日に、家の傍まで送って行った事があったので、場所はわかっていた。

「私と一緒になった時には、いつでもお送りしますから、おっしゃってくださいね。」

私も、すでに体験したこと、お気持ちはよくわかる。先日、妹が来た時に、代表が言っていたそう。

[お姉さん、わかってもらえるようになりました。週に1度か、10日に一度、来られてます。]

それは嘘で、2日は3日に一度、日本にいる時には会いに行っているけれど、代表と顔を合わすことは最近、ほとんどない。

代表はおろか、職員にも、何も言わない。差し入れと感謝の言葉以外に言わない。 

 

 奥様に言った。

「あの方は、病気ですから、普通に考えては、こちらが参ってしまいますよ。気にしないで、来られたら良いです。私も、随分言われました。お金、お金の方で、ヒステリーという病気なんですから。」

腫れものには、触れない方が無難なのだ。