尿の匂いが

 

 

母のグループホームに行くのに、足が重くなっている。日曜日には、ロールケーキを2個持参して行き、「これ皆さんの食べてもらってください。」と差し出した。最近、手土産持参でないと行きにくくなっている。毎回というわけには行かない。4階への入居者は4人から増えない。母はほとんど、3階の人達の中に交じって座っている。

 今日は、母に飲ませてもらっている、野菜ジュースが切れているようだったので、持参した。やはり、母は3階にいて、ぼっと外を眺めていた。

前回、問題になっていた眼鏡は、一件落着したようだった。

月曜日と金曜日は、入浴の日に当たっている。3人か、4人、纏めて、入浴するらしい。そういう時に、眼鏡をかけている人達が、外すので、誰のものかわからなくなる時があるという。母と一緒に入居した女性の眼鏡がないと、面会にやっていた娘さんが言っているという。母がかけている眼鏡が、その人のものではないだろうか、と聞かれたが、同じような眼鏡だと言われると、確信が持てない。他の人の写真が母のバッグに入っていることもあれば、他の人の下着を着せられていることもある。

4階に上がって、母の箪笥を調べたが、同じような眼鏡はなかった。見慣れない眼鏡があるので、それを3階に持って行き、これではないのかと尋ね、一応その眼鏡を渡して、家に戻った。弟のお嫁さんに聞くと、その眼鏡は、母が上等だからと大事にしまってあるものだった。通常している眼鏡は、バイオレット色が入っているものなら、母の眼鏡だと言う。

 電話をかけて、母の眼鏡だったことを伝えておいたのだ。母は眼鏡を3つ持っている事も伝えておいた。あれから、おそらく娘さんに確認を取ったのだろう。それでも、その方の眼鏡はまだ紛失したままらしい。

 4階にジュースを持って上がると、母の部屋の前が、おしっこ臭い。ヘルパーさんに言うと、「お掃除はしているのですが。」とのこと。[こびりついて]と彼女は言う。便所には、一緒に入るそうだ。汚物で遊ぶ人がいるから。母は、お布団を汚すことも、トイレで失敗したりすることはないが、そういう人達と一緒に暮らしている。

私は、時に、この不潔な匂いが鼻に着くのが、たまらない。今日の匂いは、母の部屋の前にある納屋から出ているものだった。お布団を押しこんである。その布団が原因だった。一日150円で、汚れたら、いつでも交換出来るという布団から放出する匂いだった。

 母を散歩に連れ出した。母は、お尻が痛いと言う。座ってばかりいるので、お尻が痛くなったのではないかしら。腰を上げるのに、苦労するようになっている。ゆっくりと、歩いて行くうちに、少し楽になったようだ。「歩かなくちゃだめよ、足腰が弱るから。」

30分ほどかけて歩き、神戸屋に入った。

「足腰が、いよいよだめになってきたわ。もうあまり長くは生きられない気がするわ。苦しまないで、ころって死ねたらいいけど。」

 母は弱気になっている。

美味しそうなシュークリームがやってきた。食べだすと、また少し元気になった。