母の楽しみは、神戸屋

 神戸屋のシュー

 土曜日の夕方、友人と映画「ココ、アヴァン、シャネル」を見る約束をしていた。西宮の映画館は、席数が少ないので、朝の内に、チケットを買っておかないと、買えないかもしれないという懸念にかられた。検査の容器を小林の医院に届け、西宮まで足を延ばすと、ガーデンはまだ、人気が少なく、ガランとしていた。連休の始めなので、どこかに行く人が多いのだろうか。

電車で折り返し、車を置いている小林に着くと、安売りの店ばかり。庶民的で、暮らしやすそう。午後は出かけるので、梨の袋詰めを買い、昨日買っておいた、伊藤園の野菜ジュースを持って、母の施設に面会に行った。母は3階にいるが、野菜ジュースを4階にまず運んだ。エレベーターのカギを開けてくれたヘルパーが、(お母さん、トイレにバリケードを張って、いくら外から叩いても、出てこないので、困りました。)という。

 (トイレに鍵がないからでしょう。母は慎重なので、外から開けられるといけないから、戸口を何かでふさいでいたのです。)

戸口を叩いても、耳が聞こえないから、聞こえなかったのだろう。中にバリケードを張って、籠城しているわけではない。朝、一番にトイレに入って、出てこないので、その夜、たまたま泊まりだったヘルパーさんが、パニックをおこしたようだ。彼女曰く

(朝、薬を飲んでもらおうとしたのに、出てこないものだから。それを飲んで安静にしておくようにとの、指示が出ていたので。)

ヘルパーさんに、あれほど指示したこが、逆になっている。薬を飲んで、30分間は、起きていなければならないのだ。休んだらだめなのだ。

 週に1度の薬だからと思っていても、宿泊者が変わると、連絡がついていない。

例のリア王は、一人だけ4階にいる。大声で怒鳴り回っている。[痛い,痛い、我慢できない。帰せ。帰せと言ってるのがわからんのか。4階で彼だけの為についているヘルパーは怒鳴れっぱなし。私は野菜ジュースを母に飲ませてくれるように依頼して、ついてきたヘルパーと3階に。

 「あの方、入ったばかりで、慣れなくて。」

3階には、他の12人が、いつものように、テーブルに座っている。昼食を支度をしている女性に梨を渡して、母の座っている所に行った。

母はいつも、神戸屋が見える窓際にいる。一緒に座っている人は、母から神戸屋の話をいつも聞かされている。

「あなたが来てくれたから、一緒にどこかに食事に行きましょう。」と母は言う。

美味しそうな、昼食は、ほとんど出来ている。「昼食が美味しそうだから、また今度ね。」しばらくして、長崎皿そばが、各テーブル運ばれるのを見ると、キッチンで見て、想像していたのとは違って、通常の三分の1くらいの量しかない。母は、あれではいつもお腹を空かしているに違いない。毎日、神戸屋を見ながら、私が来ないかな、と待っているのだ。

「また来るわね。」というと、

「いつ来るの?今日また来る?」

「明日ね。」と言って帰って来る。しまった。昼食に連れ出してあげればよかった。あんなに少ない量だとは。大食漢の母にはとても足りない。