母を医者に連れて行くので、外出時間を延長して、4時か、5時までと届けに書きこんだ。母を妹の家に連れていくか、パーマをかけにいくか、どちらにしても、気にかかっていることだった。医者に行くと、マスクを渡され、「今はちょっと。お電話しますから、それから来てください。」という。新型インフルエンザが懸念される患者が来ているらしい。
私の家に帰って、医者からの電話を待ちながら、母にコーヒーとケーキを食べてもらった。
息子が何時帰って来るのかと聞く。日に何度も、それを聞く。私が寂しくないだろう、早く帰って来てほしいでしょう、と言う。
何度同じ事を聞き、何度同じ返事をすることだろう。
「バギーをニューヨークに連れてきて、と言ってたわよ。行く?」と私は言う。
「外国には行きたくないわ。そんな元気ないし、興味がなくなったわ。」と母。
妹の娘に赤ちゃんが出来たことを告げ、「一緒に見に行きましょうか。」と言っても、
「遠いから。身体がしんどいから,よういかないわ。」と言う。
やがて、医者から電話がかかった。
外に止めていた車の中はものすごく熱くなっている。
「私はどこも悪くないのに、医者になんで行くの?」
母は医者嫌いになっている。入院での点滴以来、恐怖感が残っている。
医院に入ると、皆マスク。
子供がいて、母は可愛いわね、といつものように。やがて、大きな声で、その子に向かって、
「しゃぼん玉、飛んだ。屋根まで飛んだ。」シャボン玉の歌を歌い出す。子供は変な顔してこちらを見ている。最後まで歌い終わると、
「ここのお医者さん、長話が好きで、長い事しゃべってばかり。いややわ。」と声が大きすぎる。
一人の患者が出てきて、母の番なのに、長い間待たされた。呼ばれて入ると、長話もなし、すぐにすんだ。
「インフルエンザが流行っているみたいですね。」私が聞く。
学校の閉鎖が出ていると言う。今日も疑わしい患者が来ていたらしい。これから、母を連れてくるのは考えものだ。
明日から、プレドニゾロンを1ミリ減らして6ミリにしてみるらしい。母に傷みがないので、落としてみる。
血液検査はなかった。入院中は、毎週検査していたけれど、保険の関係で頻繁に出来ない。
久しぶりに昼食は、宝塚のサンマルクカフェに。
母の食欲はすごい。フルコース、パンを4つ、ケーキまで残さずに食べた。久しぶりだわね、母は覚えていた。
1年ぶりぐらい、ということも覚えていた。ここは美味しいわね。
食後、母を美容院に連れて行った。最初の店は、予約で一杯、向かいの店に行くと、若い男の人達ばかりで、客は一人だけ。
母は、嫌がって、「今度にします。今日は忙しいので。すぐに帰らないといけないので。用事がありますから。」なんとかやめようとしていたが、
遂に折れて、洗髪室に。あとは、まったく問題ない。男の子に話している。私はソファーに座って、待っていた。
割合上手にしてもらって、母は話し相手になってもらって、ご機嫌。「また、この次もお願いね。」
「とても熱心に,丁寧にしてくれて、親切な人達。お腹空いた?何か食べる?」
向かいにある、モスバーガーで、お茶をする。コーヒーを飲むのは、今日3度目。
今日のお昼に何を食べたのか、当然のごとく覚えていない。「お腹あまり空いてないわね。」
「かわいいハンサムちゃんばかり」が超気にいった。すごく元気になっている。ひさしぶりに、
和歌山の源さん、というおじさんの話が出た。母をお嫁さんにしたかったげんさん。母のおじさん。
「お墓参りに行かないと、死んでも申し訳ないわ。」
グループホームに入ってから、初めてその話が出た。母は見違えるほど、若い。
「あんなところで、死んでしまったら、いややわ。誰も逃げて行けないのよ。しょうもない小さな所。お嫁さん(代表)がいる、根性悪のお嫁さん。威張って、命令ばかりして、気の強い人。あんなとこ出て行って、早くしておかないといけないことしないと。ほらほら、綺麗な可愛い人が出てきているわ。」
モスの向かいにある美容院の裏口で、男の子が煙草を吸っている。誰かを待っている様子。そこに車が1台入って来た。私も車も駐車している。
「あんたの車もあるわ。小さいね。」
「7年になるのよ。」
「へー、そんなに乗ってるの。私が買ったげるわ。もっと良い車買ったら?かっこいいの。」
母はすこぶる普通で、元気になっていた。