祇園鱧料理「富久」

 

 京都に誘ってもらった。祇園祭なのに、混んでるよ、と思って、十三で降りずに、梅田に行くと電車はがらがらだった。昨日までだった。相変わらず、人はすごい。

 鰻の「梅の井」は、4組の客が待っていて、あきらめた。鰻がどうしても食べたいという雰囲気ではなかったけれど、土用のうなぎ、ということで。

「梅の井」は、土用の日は、うなぎ供養で休日にしている。京都に食べに来て、休んでいるのでがっかりしたことがあるので、それはちゃんと覚えている。

 どこか美味しいところないかな、と探してたら、鱧料理の店があった。友人は、本当は鱧が食べたかったらしい。「鱧祭り」というのも京都の夏の風物詩。

 そこは夜がメインの店で、予約制すれば、お昼に、格安のコースを提供している。

 店の中に入ると、店主らしい人がカウンターで新聞を読んでいる。若い男の人がカウンターに座って休んでいる。予約は前日までですか?今からではだめでしょうか、と聞くと、今日は予約がないので、とのこと。

 鯛の造りを鱧にすれば、調理出来ると言われた。料金が変わりますが、と。

昼のコースは5250円だった。 幾らになります? 6300円です。お願いします。

 二階の座敷に案内された。若い男の人が、まだクーラーをつけたばかりなので、と言われたけど、すぐに部屋は涼しくなった。落ち着いたお部屋、床の間に鮎を描いた掛け軸。夏の花を生けてある。

 ラッキーだ。この店は、夏は鱧、冬はふぐ料理の専門店で、昭和一〇年操業の三代続いたお店。祇園の「富久」春夏は鱧、秋冬はふぐ料理の専門店。

 息子さんらしい人が、「人がいないので、私が配膳させていただきます。」

 今から料理しますので、時間をいただきます。別に急ぐこともないので、クーラーの聞く部屋でくつろがせてもらって、特別に料理してもらうのだから、文句のあるがずはない。最初に出てきた、鱧とえびを素麺で葛で固めた突きだしは、涼しさを誘って、味もさすが、と感激。

突き出し

お次は、鱧造りの三種盛り。生造りは、伊勢エビに似た甘さだある。皮焼き造りはたたき風で中が生、鱧ちりは、梅で頂く。一品で注文すると、それぞれの造りと三種盛り、どれも四千円と品書きに書いている。鯛の造りを鱧に変えていただいて、ありがたい。皮焼きと生は初めていただく。

鱧を捌いて調理する店だからこそ出来る料理だとか。

続いて、鱧の白子が出た。これも鱧を捌いて出せる料理だと説明してくださる。鱧の白子は上品で軽く、やわらかな味。焼き鱧とみょうがの酢の物がつぎに出た。

鱧シャブは、生でもいただける鱧なので、色がつけばいつでも頂ける。最後の雑炊は、調理場に引いて、出来上がって持って来られた。

焼き鱧と白い鱧が、加えられ、絶品の味に仕上げられている。鍋一杯の雑炊は一滴も残さずに頂いた。

「雑炊足りましたか?」ですって。足りないと言えばまた作ってもらえるのかしら。お酒の味も良し、部屋食でリッチな気分、ゆっくりした時間、京都に鱧を食べにやってきたことになった。

 最後の水もの

店主は、丁寧な人で、いつまでも見えなくなるまで見送ってくださったので、店先の写真を撮れなかった。

「休んで居られるのに、調理していただいて、ありがとうございました。」礼を言うと、「お商売が出来ました。またお越しを。」

夜はとても高級なので、来られそうにないが、日本の生き鱧を捌いて作る鱧づくしを、こんなお値段でいただける店は、他にないのではないかしら。

鱧の骨切りの見事な技、鱧が骨が、と敬遠する人は、この店の鱧料理をお試しあれ。

富久

京都市東山区祇園縄手通四条上がる

電話 075-561-0984