素晴らしいご夫婦

 

母の病名は、今のところ、リウマチ性多発筋痛症ではないか、と思われる。CCP検査の結果は、陰性なので、関節リウマチではないだろうと診断された。プレドニゾンを投与して、すぐに効果が表れ、症状が改善されているので、明日から、プレドニゾンを半分に減量すると云われる。

炎症反応は、2,4ぐらいまで下がっているが、正常値は0,3以下。インターネットで調べると、1年以上、薬の投与が必要で、4年くらいかかる人もいるらしいが、ある時、突然完治するらしい。

 整形の医者は、内科の先生と退院の相談をしてください、と言われた。あとは外来で治療を続けて行けばよい、と。入院してから、40日が過ぎた。母はそこが病院であることを忘れ、自分の家だとまではいかないが、部屋だと思っている。土日は弟夫婦に母の世話をお願いしているので、私は行かない。月曜日に行くと、「あら、来てくれたの。」と嬉しそうに迎えてくれる。脳梗塞で入院しているご主人の付き添いで、泊まりで看病している奥さんが、「疲れで、寝込んでいるのではないかと心配しました。」と。85歳だというのに、連日泊まり込で、わがままなご主人の暴言に耐えて、よく付き添っておわれると、私の方が、その方のお体を心配する。食事を食べたい、家に帰りたい、車椅子で散歩させろ、病院の部屋に声が響いている。点滴を2回も自分で引っこ抜いたのだとか。

 私が母の手を取って、病院の廊下を歩いているのを見て、「お母さんの表情が違いますよ。嬉しそうだこと。昨日も、その前の夕食後も、お盆を一人で配膳台まで持って来てこられていましたよ。」と言われた。おそらくつまらなそうな顔をして、食後のお盆を持って、よちよちと歩いていたのだろう。

 看護婦さんが、「お母さん、午後に、あそこに出て、一人で座っておられました。階段があぶないのではと心配しました。」4階の屋上庭園が、屋外リハビリにも使われていて、階段の上り降りの歩行練習場になっている。毎日、2,3回リハビリをかねて、歩き回るついでに、そこも一回りする。一人で退屈なので、ふらっと出て行ったのだろう。

病院の中の患者さんに、トラブルが多い。毎日、かかさず、食事時にやってきて、奥さんに食事を食べさせている人がいる。年齢差から云って、お母さんと息子さんかと思っていたら、看護婦さんとの話から、奥さんだとわかった。

母は、二人を見て、涙を流しながら、「なんて素晴らしい、けなげな息子さん。お母さんを一生けんめいに世話されて。」耳が遠いので、筒抜けだ。

そこ方に、病院からの帰りのエレベーターで一緒になった。会釈する程度だったので、初めて会話を交わした。

「毎日、朝、晩と二回来られているのですか?」と聞かれたので、以前はそうしていたけれど、最近は「11時に来て、夕方までいて1回にしています。」と答えた。骨折で入院して、治りかけたところに、今度はこけて、また骨折したという。看護婦さんの不注意なので、治療費は半分負担してくれているが、そういうトラブルはどこの病院でもよくあるらしい。ベッドから落ちて、脳を打ってそのまま亡くなった友人も、と言われた。

お姑さんを、朝から夜まで付き添っていた人も云っていた。「ベッドから落ちて、歯を折ったので、病院の負担で退院が伸びています。」と。

奥さんは90歳で、若く見えるご主人は10歳年下だそう。母が失礼な事を云って、と言い訳すると、どこでも親子と思われるらしい。

昼食と夕食を付き添いに、2回往復しておられる。10分ほどの距離だから、間に家で仕事をされている。

今日も、母と昼食を、談話室に持っていくと、来ておられた。話しかけられながら、食事を口に運び、献身的な介護をなさっている。奥さんの手をなでながら、やさしく接しておられる。

母はまた、感涙に声を震わせながら、「あんなに素晴らしい子供はいないわ。お母さんを大切にしてあげて。素晴らしい親子やね。」と大きな声で。

私も思う。素敵なご主人に、甘える可愛いらしい奥さん。親子ほどの年の開きに見える、愛情あふれる夫婦。