パリで最も美しい風景

 

晴れたかと思うと、暗雲立ちこめ、雨が降り出す。フランス人は、雨に打たれて歩くのは慣れているとはいえ、大雨の中を、気持ちよく歩くのは難しい。

 雨が上がると、嘘のように、晴れ間が広がり、雨に洗われた建物と木々が、麗しい顔を見せる。犬のふんで、お世辞にも美しい町だとは言えない歩道も、現れて、どこかに流れたあとは、さっぱりとして気持ちがよい。

 マルグリット、デュラスの「イギリス人の恋人」が28日から始まるので、大雨の中、マドレーヌ劇場を探し歩いたのに、見つからなかった。びしょ濡れになって、降参。

14番の地下鉄がマドレーヌに停まるので、もぐって、帰る。脚は疲れている。

駅のエレベーターを上がると、西の空が晴れている。いつも、バスで通りながら、まだ時間があるからと、いつも通りすごしていた、セーヌ河畔の写真が撮りたいと思っていたのに、大雨で、今日もあきらめていたのだけど、もう日がないので、引っ返すことにした。地下鉄でピラミッドまで行く、バスで戻る。アート橋で降りようと思った。バスはなかなか来ない。久しぶりの本格的な寒さに、手が冷たい。

歩いた方が、身体も暖まるので、良かったと後悔しながら、結局バス が来るまで15分も待っていた。

わずか3駅の所で、降り、そこからカメラ目線で歩いて行く。

ドス黒い雲のかかったセーヌは、ひと際魅力的だ。ノートルダムのせむし男か、レ、ミゼラブルの世界だ。暮れていくセーヌ、観光船に照らしだされ、セーヌの水が揺れ動く。

引き返して良かった。パリの一番美しい景色を独り占めにしているような錯覚を抱くのは、いつものように観光客がいないから。大雨で、どこかに散ってしまっている。

 それとも、今渡っていった、ディナー付きの観光船に中でワイングラスをかたむける時間なのか。

ポンヌフに来ると、いつも、「ポンヌフの恋人達」という映画を思い出す。好きな映画。 アート橋からは、シテを挟んで、二つのセーヌが見渡されるので、アート橋というのだろうか。それともオルセーが側にあるからだろうか。

 しだいに街灯がともり始めた。素晴らしい写真が撮れた。

ノートルダム寺院が闇夜に浮かび上がっている。

この神秘的な光景を否定するかのような、サンミッシェルのギリシャ街が、客引きにやっきになっている。

どの店も値段を競って、安いが、美味しそうな気はしない。どの店も、店前に、串さきにしたバーベキューをきれいに並べている。

 お腹が空いている。帰って、残り物を食べる。