和歌山市居酒屋「千里十里」

   和歌山は、有吉佐和子の小説「紀ノ川」「華岡青洲の妻」でも良く知られているが、大阪からは近いのに、和歌山市街は初めてだった。母方の祖父母の出身地でもあり、高野山の麓にある、繁野という村や、祖父母が住んでいた、神室という場所には何回か訪れたことがある。紀の川が近くにあり、泳ぎ自慢の父は,亀のように子供を背中に乗せて、紀の川で泳いでいた記憶がある。上流にあたるのだろう、流れ着いて、海に合流する模様が、和歌山城天守閣から見える。海の上に輝く夕日が沈むにはまだ随分時間がありそうだった。お城の入館は4時半までで、5時に閉館するので、天守閣からぐるっと城下町を眺めて、見渡す限り、山あり海あり、さすが紀州の御三家、豊かな町の風情がある。近代的な建築の和歌山美術館が、すぐ近くの森に囲まれた場所に。大きな白い鳥が、森の木々に沢山羽を休めているのが見える。    岬公園に近い浜辺で、打ち上げられたワカメを取っていると、散歩していた老人が、傍にやってきた。しばらくいて、その場を去ったのだろうと思っていたら、見事なワカメを沢山取って来てくれた。水際で取ったのだとか。 有難く頂き、思わぬ収穫で、凱旋するような気分で、堺の町にその夜は宿泊つもりだったけれど、堺への道路が混んでいて、せっかくここまで来たのだから、和歌山に変更することになった。岬公園から、和歌山までは時間がかからなかった。  和歌山城のすぐ近くのホテルを予約し、日没まで、城を見学したり、そのあたりを歩いたりする時間が出来た。 ホテルに入り、インターネットでお目当ての居酒屋を探す。 太田和彦の居酒屋で引くと、「銀平本店」にも行っているが、「千里十里」という店の方が、居酒屋風で良さそうだ。随分人気のある居酒屋なので、席がないのでは?と心配したが、店のご主人の前で入口に一番近いカウンターが空いていた。  聞けば、東京や、各地から長期の出張でやっていた日人達が、通いつめ、名残を惜しんで帰るという。さもありなん、である。新鮮さは、当たり前で、その中でも勧められないものは、こちらが注文しても、断わられる。こんな店なら、通いつめたい。一晩で去るのはなんとも心が残る。      それも、これも、絶品揃い。お酒もこの店の為にと、特別のものを仕入れている。松前寿司は、もう一度注文したくなるほど美味しいし、最後に注文した、出し巻くセットの出し巻きは、京都の「梅の井」に負けずおとらず、其のうえ、口の中で溶けそうな柔らかさ。    随分食べたのに、あとで全く喉が乾かなかった。是非、また行きたい店、通いつめたい店だった。     千里十里  和歌山市元寺町1-70 073-433-4480