初春大歌舞伎、仁佐衛門の「霊験亀山鉾」

 

 

 1月の松竹座は、寿「初春大歌舞伎」で幕が開かれた。片岡仁左衛門さんの舞台みたさに、夜の部の、一番安いチケットを買った。母のお供で行くのは昼の部なので、夜の部の

通し狂言「霊験亀山鉾」を見ないではお話にならない。これは仁佐衛門の独壇上だから。 四世鶴屋南北の作品で南北の最高傑作と言われている。お芝居では滅多に見られるものではなく、関西での上演は、なんと77年ぶりなのだそうだ。一生に一度見られるかどうかのお芝居だ。

 

 仁佐衛門は、仁木弾正など、悪役も大胆不敵なすごみを色っぽくみせて、当たり役なので、このお芝居では、藤田水上右衛門という、徹底した冷血漢ぶりを、性的な魅力もただよわせながら、見事に演じている。南北の作品は、悪を徹底して描きながら、悪に魅せられる「悪の美学」がその本質のようだ。こういう視点は、西洋の作品でも、テーマとして取り上げられるが、華やかで大仰な振る舞い、形の美を追求する歌舞伎では、嫌みがなく、スペクタクルそのものを楽しむ事ができる。冷血な藤田と、暴れ者のヤクザ「隠亡の八郎兵衛」との違ったキャラクターを演じているので、仁佐衛門のフアンにはお年玉のようなもの。

 

 三階席でも、充分良く見えるので、4200円あれば、足を運んで見る価値は充分おつりがくるほどなので、是非のお勧め。言葉がわかりにくいお芝居ではなく、イヤホーンの解説がなくても充分言葉も理解できる上に、上方の口調も楽しい。

 3階席の後ろの方に、かけ声をかける人が座っていて、出てくる人の屋号で声をはりあげる。舞台の最後に、「大当たり」と言うかけ声を。本当にこのお芝居は、大当たりの役所に大当たりの題目だなあと、納得しながら席をた立った。

白い着物姿が奥さん

 幕間と帰り際、仁佐衛門さんの奥さんを始め、役者の奥さん方が、後援会のテーブルの側に立っておられる。ぎひいきさんに挨拶するために。仁佐衛門さんの奥さんも、京都祇園置屋の娘さんなので、いつまでも変わらず、着物姿が美しく、色白であか抜けている。

このお芝居で、もう一人の主役、敵討ち側の二役を 愛之助が好演している。こうしてみると、どうも、松島屋さんの後継者は、愛之助になりそうだ。仁佐衛門さんの息子は女形、長男の我當さんは、本来は跡継ぎなのに、歌舞伎の形も踊りもだめ、その息子の進之助は尚更だめ。

 秀太郎の養子、愛之助は、松島屋とは血縁ではないけれど、今のところ、この人しかいないようだ。仁佐衛門と競演していると、比べようもないほど力量不足だけど、と勝手な心配をさせてもらう。

   

 幕間のわずかな時間に、よく行った寿司屋さん。大阪寿司の名店「丸万」が去年の11月には、休業の張り紙があった。当分の間、と書いているので、病気なのかしら、と思っていたら、1月になると、「テナントの募集」の紙がはってある。売りに出ているらしい。 年寄りの女将さんが、レジを受け持っていて、よくあの年まで、と感心していたけれど、これでまた、一つ、大阪の味が消えて行ったような気がして寂しい。大阪寿司の「すし萬」はあちこちに店を出しているけれど、そこは、一軒を守っていることを自慢にしていた。創業百年以上という歴史を誇る店だった。大阪の名店が一つ消えてしまった。