松江の老舗バー「山小屋」

 

 「この町で昔からやってるお勧めのバーはないですか?」ホテルの受付で聞くと、ためらうことなく「山小屋でしょう。」と教えてくれた。

 食事の「川京」から一筋向こうを、左に入った所にある、と地図に印をつけてもらった。食後にバーに行くつもりで、川京では、お酒は焼酎一杯とビールをコップ一杯に控えていた。教えてもらった通りを見ても、「山小屋」という看板は見あたらない。辻を間違えたのかもしれないと、幾つかの通りを見て歩いたけれど、わからない。戻って、通りで客引きをしている若い男の人に聞くと、店の中で聞いてください、と。女性の写真が、でかでか貼ってある店は、実は男客相手の、女性斡旋のいかがわしい店だった。

 教えてくれた通りに行き、教えられたビルの看板にも「山小屋」はない。そこを通る学生風の男の人に聞くと、ホテルで教えてもらった通りだった。その通りに入って行くと、「山小屋」という文字が。わずかな通りだけれど、入って来ないとわからない店だった。

  

 カウンターには両側にカップルと3人の男性のグループが座っていた。店主は、よく話す人で、こちらが話さなくても、話にはことかかない。それでも、先代のお父さんよりもずっと無口なのだそう。

しばらくいる間に、随分教えてもらった。食事をしてきた「川京」さんの店主は、2,3時間の間に、5,6回はスピーチを聞かされること、「山小屋」に客がなく経営が大変だったころ、「川京」の客を「山小屋」に連れてきてくれたこと、旅チャンネルの太田さんという、グルメとお酒のライターは、とても陽気で優しい人で、バーで3杯飲んでははしごして回るのだということ、優しい、陽気な人で、店主は神様のように慕っている人だということ、神戸にある「サボイ」の他に、4,5軒の有名な老舗バーの名前をあげ、大阪の吉田バーの先代の思いで話しになり、年に2度、大阪に出てバーを回り、美味しい物を食べるのが楽しみなのだということ、まもなく大阪に行くのが楽しみだということ、バーでは、バーテンダーはカクテルを頼まない、頼めない、等々。

 

 松江は、お刺身や魚は新鮮なものを安く提供出来るけれど、金沢のように、京風懐石からアレンジした質の高い料理が出来ないが最近では、店が工夫をこらし、グレードを上げることに一生懸命になっている。大阪の吉兆で修行をした料理屋を初め、3,4軒の店を紹介してもらったけれど、それは今度の機会に。

 若いのに、店主は、松江の生き字引のように、よく知っている。お酒の種類集めも凝っていて、店の奥に200本くらい、置けないお酒が並んでいるのだそう。

 私が注文した「モヒート」も、本来はこういう作り方なのだと、ソーダではなく、さっぱりした水割りだった。カクテルは、何度か賞を取っている。カウンターの木は、年代物で、創業以来ずっと使われている。

 親子二代、松江をこよなく愛し、人の来ない時も守り続けて来た「山小屋」というバーは、この町の台所番のような存在でもある。

  

 「時代屋の女房」で知られている、松村友実の好みの店というのにも行ってみたいものだ。まだ、まだ、魅力的な店が多そうだけが、関西からの足が悪い。

「飛行機ですか?」と聞かれる。一番便利なのは、飛行機だろう。米子空港がちかくにある。