陶仙御所坊

  

 御所の坊だとばかり思っていたら、息子が、御所坊だよと教えてくれた。

有馬は、近いので、良く泊まりに行くが、御所坊は初めてだ。

 息子が、時差ぼけで夜中に起きているので、24時間入れる宿という条件で、この宿を指定したので、調べてみると、確かに、他の宿屋はどこも夜中は使用出来なかった。

 敬老の日なので、母を招待するのをかねて、予約を入れる。お風呂のある2階にある客室が高齢者に喜ばれると、インターネットに書かれているので、その部屋を指定すると、2室開いていると言う。今予約を入れると、キャンセル料がかかるというので、息子が伊丹についてから、もう一度電話すると言うと、それまで部屋を押さえておきます、と言われた。その夜、遅くなってしまって、電話を出来ず、息子もどちらでもいいようなことを言うので、やめようということになっていたが、母は行きたいようなので、まだ。開いているようならと夕方、旅館に電話すると、私の電話番号をキャッチして、「なになに様、お待ちしていました。」と言われた。ちゃんとそのまま、部屋を抑えておいて下さっていた。予約を入れた後で、息子の親友から電話が入り、翌日のお昼に会うという。じゃ、お父さん(彼にとってはおじいさん)のお墓参りは、今回は行けないね、と言うと、朝一番で行くという。

翌朝、朝食をすませて、7時過ぎに車で、お墓参りに出かけた。こんなに早く行くことはなかった。敬老の日の祝日でもあり、普段は渋滞する道もすいすい、早く着き、日中は暑くなると言われていたが、まだ空気もさわやかで、人もいなかった。帰り道、川西能勢口で、息子を下ろして帰ってくると、まだ10時を過ぎたばかりだった。

 

 夙川に母を迎えに行き、家で息子が帰って来るのを待ち、旅館に着いたのは4時半頃だった。着くと、カモミールハーブティーをいただきながら、説明を聞く。有馬に来ると、帰りによく行く、喫茶店を始め、この旅館が経営している、花子宿、旅湯アブリーゴなどの食事どころや、土産物店などの割引券と、おもちゃ博物館の入場券のついた、ゲストカードを頂いた。夕食前には、食前酒のドリンクとオードブルサービスがあり、食後にはコーヒーのサービスもあるという説明を受ける。落ちついた雰囲気のある、とても良い旅館だ。

 お部屋はゆったりとして広く、控えの間に、マッサージチェアと壁かけにテレビ、ランプ付きのテーブルが置かれ、周りのダークブラウンの木作りに合う、バーバリーの膝掛けが用意されている。冷蔵庫や、金庫、グラスなど、全て扉の中に隠しになっている。

 部屋には、足を伸ばせるように、高いクッションとひざかけ、浴衣も着替えよう、バスタオルも3枚換えが養用意されている。さすが、有馬の名旅館だけあって、どこを取っても細かい心使いに溢れていた。

 お風呂の洗い場が小さいので、5,6人も入ると、洗い場が占領されるのが難点だが、赤湯に入るのに、階段をなくし、スロープになっているので、足の悪い母も安心だ。お風呂の一番奥まで行くと、露天兼用になっていて、男湯と共同になっている。混浴ではないが、男湯と女湯が見えるようになっているので、それだけはなんとかしてほしいものだ。 昔は、混浴だったのだろうが、昔の風情をそのままに残しているのだろうか。仕切りをしてもらいたいと、多分誰彼と無く今までの要望はあったにちがいないのだけれど。

 

    

お風呂から出て、夕食の前に、サロンで、オードブルと食前酒をいただいた。私はジントニック、母は赤ワインを注文した。グランドピアノがあり、書棚には沢山の本が並んでいる。灯りを抑えて、安らいだ雰囲気を演出してある。朝から、お腹の調子が良くないので、と言っていた母は、オードブルを美味しいと言って喜んで食べていた。

 

 食事は、最終の6時半にしてもらっていた。マッサージをしながら寝てしまっている息子をおこして、食卓に。私と母は、食事を少なめにしたものをお願いしていたのに、それでも随分沢山出た。お肉と油物を控えた山家料理というのだった。息子には、肉の入った料理長お勧めの山家料理。 どれも、申し分なく美味しかった。ステーキの鉄板焼きのコーナーで、ステーキのコースを食べているカップルが一組いたが、あとの人達は、全て、山家料理のようだった。

 

 

 食後、母と私はコーヒーを頂きながら、リラックス。

 有馬に来ると、大抵その日のうちに、2回はお風呂に入るのに、身体が熱くて、とても入る気にならない。温泉は、源泉のままなので、とても濃く、人によるとかぶれるので、最後にジャクジーに入るといいですよ、と常連の客が教えてくれたが、私達は慣れているので大丈夫だと知っていたが、これほど湯冷めのしない赤湯は少ない。有馬に来て、一度しかお風呂に入らなかったのは初めてだ。

 翌朝の入浴後に、母はなかなか汗が引かなくて困っていた。24時間入る事が出来るだけあって、何も足さない、何も引かない、名湯の中の名湯のようだ。

 朝食が、また風雅だ。カメラを部屋から持ってこなかったことを悔やんだ。木箱の中に、あぶったのりがのっていた。木箱の中に、黒豆の湯豆腐と、つゆの筒、熱した炭の筒が入っている。薬味の削り鰹が懐かしい。

朝食が8時から、というのも納得する。準備に時間がかかるのだろう。

 12時の飛行機で、再びアメリカに帰るので、朝食を食べると、旅館を出なければならなかった。「陶仙御所坊 」は、おもてなしの心を大切にし、悠久の時を味わえる宿なので、こんな風にあわただしく過ごすのは、勿体ないように思われるだろうが、短い時間でも、充分に満足させてもらえる旅館。忙しい人にこそ、勧めたい宿だと思った。