サロン

 パリ在住の画家の吉田さんから絵画をお預かりした時に、吉田さんはこうおっしゃった。

「あなたの家で、サロンを開いて、私の絵画を見ながら、あれこれ話をしてほしい。」

 サロンというのは、パリで知識人達が集まって、食事やワインを飲みながら。あるいは、お茶をしながら、意見を交換しあったりする場所で、19世紀のフランスの詩人マラルメも自宅でサロンを開いていたし、フランス文学史上には、数々のサロンがあげられるが、20世紀には、サルトルとヴォーボワールを始め、パリのアパルトマンで、数々のサロンが開かれていた。

 昨日、我が家で、小さなサロンを開いた。集まっていただいた方達と吉田さんの絵画を巡って、エピソードなども交えて、話の花が咲いた。

 吉田さんの絵画を買っていただいたことの、一番大きな喜びは、吉田さんの絵画が、新しいサロンの場を創造したことだ。買ってくださった方達の家に飾られることで、新たな広がりの輪を、命と平和についての語らいの場を創造出来たこと。吉田さんの命が、次に続く世代の中に、息づいて行く事、そして、吉田さんが下さった、新しい友情の輪を我が家に創造してくださったこと。

 吉田さんの絵画は、大きな作品ばかりの大がかりな展示で、日本の画廊も扱ってこなかったし、パリの画廊にも置かれない。それは吉田さんのポリシーでもあった。私がお預かりしたのは、吉田さんが、憑かれたように朝から晩まで没頭して、これが自分の目指す作品だ、というレベルに到達出来たという、小さな作品ばかり。吉田さんの死後、故郷である日本の民家に持っておいてほしいという作品ばかり。

 日本で知られていない、吉田さんの絵が、お互いに知らずに通り過ぎたであろう素晴らしい関係を創造していく。サロンとは、そういう場なんだな、と改めて実感した。