先日、神戸松竹で観た、歌舞伎映画「野田版 研辰の討たれ」の中で、引っかかった台詞がある。
仇を追っている兄弟が、敵を追ってあてどなく旅を続けて、疲れ果てている
状態を、「なかなか死なない、がん患者の看病に疲れ果てるようなもの」という
台詞が入っている。
この台詞は、癌を患っている人に対して、侮蔑的で、不適切な言葉ではないだろうか。
この芝居の中で、追われている、敵が勘三郎の役なのだけど、命が惜しいと命乞いをする。
生きテー、生きテー、と切実に語るが名帳場が、悲しい。
人は桜のように、潔く死んで行くものではありません。秋の紅葉のように、真っ赤に焼けて、一片、一片、はらはらとおちて死んで行くものでしょう。
勘三郎は、勘九郎から勘三郎に襲名を終えて、まだ元気な頃の舞台です。
まさか自分の身体が癌の病に侵されるとは、想像もできなかったことでしょうが。染五郎と勘太郎が、敵討ちの兄弟を演じていて、許されて助かったと喜ぶ勘三郎を、だまし討ちにして、故郷に錦を飾る兄弟。
紅葉を一片が横たわる身体に、ひらひらと落ちる所で幕はおります。
不適切な言葉が気になる所もあるお芝居でしたが、勘三郎がその後それほど時間も経たないのに、癌で亡くなったのは、一緒に芝居を演じていた役者達も、たまらない気持になるのではないかと思います。
残して良いものと、辛いものがあるのです。
笑わせる為に作られたお芝居ですが、複雑な気持ちで、笑うに笑えないお芝居です。